「大丈夫だよ、桜子ちゃん」


 理央くんに言われて目を開けると、正面に、長身の男の子が立っていた。

 心地よいイケボが響く。


「驚かせてしまって、申し訳ございません。わたくし、執事の雪平がご案内させていただきます」


 雪平先輩だ! 

 目が慣れてきたのか、切れ長の瞳と、シャープな顔のりんかくが見える。


「よろしくお願いします! 一年二組の椿理央です! 入部希望です!」


 さすが空手家の理央くんは、すぐさま元気のいい挨拶をした。

 わたしも、理央くんにならって挨拶する。


「お、お願いします! 同じく一年二組の加賀美桜子です! わたしも、にゅ、入部希望です!」


 ちょっと()んだ。

 恥ずかしい……。

 雪平先輩はクールにうなずいて、
「では、入部テストの会場までご案内いたします。あっ、お靴はそのままで結構です」
 と、靴をぬごうとしたわたしたちを止めて、歩きだした。

 わたしと理央くんは外靴のまま上がりこんで、雪平先輩の後を追う。


「暗くなっておりますから、お足もとにお気をつけください」


 新入生のわたしたちにも、すごく丁寧に接してくれる雪平先輩。

 ホントに執事になりきってるんだなあ。


「あの……雪平先輩。先生に『旧校舎には入るな』って言われたんですけど……」


 わたしは、疑問に思っていたことをたずねてみた。