「わぁ、きれい……」


 校門のそばに立っている桜の木が満開だ。

 強めの春風がそよぐたび、うすいピンクの花びらが舞い散って、まるで雪のよう。

 髪についた花びらを手に取り、まじまじと見つめる。

 わたしの長い髪もまた、うっすら桜色――。

 今日は、礼城(れいじょう)町立礼城中学校の入学式。

 昨日、十三歳の誕生日をむかえたばかりのわたし――加賀美(かがみ)桜子の新しい門出の日だよ。

 わたしの名前にもなっている桜のシャワーをあびながら、心の中で、あの人に報告する。

 ――ミレーヌ。わたし、中学生になったよ。

 なーんてね。


「桜子! なーにひたってんの?」


 肩を叩かれ、ふり返ると、かのんがいたずらっぽい笑みを浮かべている。

 お互いに真新しいセーラー服に身を包んでいて、ちょっと照れ臭い。


「わあ! かのん、すっごく似合ってるね!」

「ありがと。てか、桜子の方が似合ってるし」

「そう……? 自分じゃよくわからなくて……。違和感すごいよ」

「まだ着慣れてないだけよ。すぐに慣れるって」


 そう言って、かのんはたずねてきた。


「そういえば、自分のクラス見た?」


 首を横にふるわたし。

 小学校の六年間、かのんとはずっと同じクラスだったけれど。


「こわくて見れてないよ。かのんは確認したの? わたしたち、離れちゃった?」

「あたし――中辻かのんは二組。そして、そして、加賀美桜子は……」


 かのんがもったいぶって間を置いたから、わたしはつばをごくりと飲みこんだ。