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放課後。

(田中 栞)は、部活動のため美術室へ向かう。


今は、来月に行われる文化祭、
南条祭(なんじょうさい)』の美術部スペースで展示する作品を手がけている。


テーマが決められているわけではない。
規則に囚われる必要もない。
思うままに筆を走らせる。

この時間が、私は好きだ。


私を除く、美術部員は3名。
3年生はおらず、2年生女子が1名、1年生女子が2名。

みんな物静かで、
真面目に部活に取り組んでくれている。


日々、流星のお世話や、騒がしい凛の制止で
くたびれている私にとって、ここは癒しの場なんだ。



あぁ………今日も平和だなぁ………。



『…ガタッ』


締め切った美術部のドアの向こうで、
一瞬、大きな物音が響いた。


「……?」


部員のみんなが少し手を止め、
音のした方向を見つめる。


……が、数秒経過しても、特に異変は起きない。
各々作業を再開した。


『………ガタッ、ガタタッ!』

「!?」

さっきよりも大きな音が鳴る。


……間違いない。
ドアの向こうに…なにか[いる]。


少し怯えた様子の部員と目が合い、
部長である私は、意を決して立ち上がった。

本当は、怖いの苦手なんだけど……。


ドアに近づいて、
まずは、嵌め込まれたすりガラスから、
廊下側の様子を伺う。


——異様に低い位置で、
大きな黒い影の塊が見えた。


「………な、なに……あれ………」

その影は、
若干ユラユラ、ウゴウゴと蠢いている。


クマ………?
それとも、イノシシ……。
いや………未確認生命体………!?


……怖すぎる。


さっきまでの平和な空気が嘘のよう。
突然のホラー展開に、
心拍数が上がり、じっとりとした汗がにじむ。


ゴクリと息を呑んで、おそるおそる慎重に、
ドアを右側にスライドしていく。


徐々に姿を表した、影の正体は——…


人間だった。

大きな身体を、小さくしゃがませ、
なぜか両手を頭の上に置いている。


「…ん?」


この黒髪……

ついさっき見た覚えがある。


「えっと………ま、真澄…くん…?」


私の声に驚いたようで、
影の塊だったものは飛び上がり、
通常の人間の立ち姿になった。


…やっぱり。

その正体は、昼休みに渡り廊下で話した、
真澄 純くんだった。