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放課後。
(田中 栞)は、美術室へ向かう。

今は、来月に行われる学園祭の美術部スペースで展示する作品を手がけている。

テーマが決められているわけではない。
規則があるわけでもない。
思うままに筆を走らせる。

絵と向き合っている時間は、
学校生活の時間の中で、唯一、規則に囚われずにいられる。この時間が、私は好きだ。

なにより、とても静かで気に入っている。
私を除く、美術部員は3名。
3年生はおらず、2年生女子が2名、1年生女子が1名。
みんな物静かで、真面目に部活に取り組んでくれている。

あぁ…平和だぁ……

流星のお世話や、騒がしい凛の制止でくたびれていた私にとって、ここは癒しの場なのだ。


…ガタッ

締め切った美術部のドアの向こうで、一瞬、大きな物音が響いた。

部員のみんなが、少し手を止めた。
が、数秒経過しても、特に異変は起きないため、作業を再開する。

………ガタッ、ガタタッ!

…やっぱり気のせいじゃないみたい。
ドアの向こうに…なにか[いる]。

少し怯えた様子の部員と目が合い、
部長の私が、意を決して立ち上がった。

戸に近づいて…
まずは、嵌め込まれたすりガラスから、廊下側の様子を伺う。

するとー…
異様に低い位置で、大きな黒い影の塊が見えた。

おそるおそる、慎重に、
ドアを右側にスライドしていく。

影の正体はー…

人間だった。
大きな身体を、小さくしゃがませ、
なぜか両手を頭の上に置いている。

この見覚えのある、黒髪…

「ま、真澄…くん…?」

私の声に驚いたのか、
影の塊だったものは、飛び上がり、通常の人間の姿になった。

やっぱり。
その正体は、昼休みに渡り廊下で話した、
真澄 純くんだった。