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中学3年生、夏。
受験シーズン真っ只中。
——父が亡くなった。
職場からの帰宅途中、
父は、赤信号無視で道路を横断。
そして、トラックと衝突したらしい。
それ以上のことは、聞いていない。
[父がルールに背いた]という事実を受け入れられず、
悲しいを通り越して、怒りがわいていた。
だから、「詳しい話を」なんて言われても、
聞く耳を持てなかった。
真面目な人だったのに。
母が辞職して、
あんなに悲しんでいる姿を、一緒に見たのに。
「……しーちゃん」
通夜が終わり、
1人で外に出て、夜風にあたっていたところ、
流星が後を追ってきた。
「…流星。今日は来てくれてありがと」
「……んーん」
「……………もう。
お父さんってば。ひどいよね。
私には、ルールを守りなさい、なんて言っておいてさ。
お母さんが泣いてるのも、みたのにね。一緒に」
「…………」
「ほんと……反面教師もいいとこだよ。
私は、こうなっちゃいけないんだ」
「…………あのさ。しーちゃん。
オレ、あの時、たまたま現場いたんだよ。
…遠かったし、よく見えなかったけど。
多分、ほんとは、
トラックからみえねー角度に子供が……
「やだ、聞きたくない!!!」
私が流星に対して声を荒げたのは、はじめてだった。
流星は驚いて、少し目を見開いている。
「………………ほんとはわかってる。
お父さんは理由もなく、そんなことしないって。
お母さんのときだって……
きっと何か事情があったんだろうって。
でも……それで納得なんて、できないよ!
なにも失わずに済む方法もあったもん、絶対……!!」
声が震える。
全身に力が入っている自分に気づく。
「しーちゃん……」
流星にぶつけたって、仕方がないのに。
天職だ、なんて言いながら、
毎日いきいきと輝けていた居場所を失い、
悲しんでる母をみて、心が痛かった。
父には、
趣味がたくさんあった。
日曜日のゴルフ。
たまに遠出して美術館めぐり。
なかなか上手くならないピアノ………
まだまだいっぱい、
やりたいことがあったはず。
私のことだって………
これからもずっと、側でみていてほしかったのに。
この先の成長を喜んでほしかったのに。
何かを失って無念に思うのは、当人だけじゃない。
「………今回のことでね、気付いたんだ。
規則だけが自分を守ってくれるんだ、って。
だから、気を緩めちゃいけないの。
…もっと厳しく、完璧にならなきゃ」
自分のためだけじゃなく、
周りの人を悲しませないためにも……!