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「はっ……まに…あっ…た……」


全力で走ったおかげで、
点灯時刻の約4分前に入り口をくぐる。


会場内では、
『10秒前からカウントダウン開始』
とのアナウンスが流れている。


「すーごーーー!海外にいるみたい!」

凛は、数時間前に(田中 栞)が覚えたものと
同じ感動を、今味わっているようだ。


しかし。
お昼の時より、会場内の見通しがきかない。
来場者の量が、桁違いに増えているから。
人の波に阻まれ、思うように前へ進めない。


「これ、あと4分で中央までいけますかね…」

「うーん。どうだろう…」

「もーいんじゃね?こっからでも」

「だめだめっ!
ぜっっったい、ツリーの真下で見るんだから!
ほら、流星くん!やる気出して!」

「えー」

あくびまじりで諦めムードの流星を、
凛が引っ張っていく。


その後ろをついていこうとした時。
グンッと、何かにつっかかった感覚がして
足が上がらず、前に進めなかった。

上半身だけが前のめりになり
危うく転びそうになったところ、
なんとか立て直し、慌てて足元を見る。

履いているスニーカーの紐が解けていて、
それを、もう片方の足で踏んでしまっていた。
さっき走った影響で、緩んでいたんだな。


混雑の中、このまま歩行するのは危険だ。


「凛!まって!」


…だめだ。気づいてない。
人の壁に吸収されて、声の通りが悪くなっている。


大きく息を吸う。


「凛ーー!私ー!靴ひも、がっ!

わっ!ごめんなさい」


立ち止まっていたら、
後ろから来ている人とぶつかってしまった。

まずい。迷惑がかかっている。
でも、ここじゃ屈めないし…。


「栞さん、こっち」


ぐいっと私の腕を引いて、
道を切り開いていく、大きな背中。


群集の中でも、頭ひとつ分抜けている真澄くんが、
人通りの少ない安全地帯を見つけてくれたようだ。


私が転びそうになると寄りかかれるよう、
気を遣って歩いてくれている。


「ここやったら大丈夫や思います」

「ご、ごめん。ありがとう。
すぐなおす、から…………

………あれ」


手袋をしてるから小回りがきかず、
なかなか上手くいかない。

仕方ない。一旦外して……


「俺、やりますよ」


モタモタしている私を見兼ねたのか、
スルスルっと靴紐を結んでくれる真澄くん。


私の前で、ひざまずいて。


……うわ。
なんかこれ、照れるよ……!


「キツくないですか?」

上目遣いで聞く彼に、変な緊張が増す。

「う……うっ、うん!!大丈夫!!
ありがとう……」


「さて…。どないしましょう。
完全にはぐれましたね」

「うん…」

すっかり人波の奥へと消えてしまった、凛と流星。


「とりあえず連絡をいれ……って
あれ?私のスマホ、圏外なんだけど」

「あー…。俺のも、電波立ってないっすね。
こんなけ混んでるからでしょうね…」

「ええ……」


『それではみなさまー!
間も無く10秒前です!
一緒にカウントダウンお願いします!』


会場内のスピーカーから、
中央ツリー前にいると思われるMCの声が流れ始めた。


『10ー!9ー!』


「わ、カウント始まっちゃった」


「しゃーないですね」


『8ー!7ー!6ー!』


「見えますか?ツリー」


「んーーと、うん。多分。…ギリギリ」


『5ー!4ー!』


「……おんぶしましょか?」


「おっ!?
そっ、それは流石にいい!!!!!」


『3ー!2ー!1ー!!!』


「はははっ」


『ライトアップ!!』