雑貨のお店へ戻ると、
真澄くんは端のほうで待ってくれていた。

何かを購入したらしく、
先程まで持っていなかった紙袋を提げている。

黒髪からのぞく耳が、ちょっと赤い。


「真澄くん!お待たせ。ごめんね、寒い中」

「や、大丈夫…それより、
はよ行かな、始まってまうんちゃいますか?」

「わ!ほんとだ!」

時計を見ると…もう13時18分。
私たちはステージブースに急いだ。


開演から1時間。

あっという間だった。
全身で、その迫力を浴びた。

およそ50名の分厚いコーラスが、
身体中をビリビリと駆け巡る。

楽しそうに、そして幸せそうに歌う姿が、心に響く。

私たち観客は、称賛やお礼の言葉の代わりに、手拍子足拍子を返す。
会場の一体感も、気持ちが良い。


みんな、年代・性別・体格は違うけど、
きっと、心を一つに重ねているから、
こんなに素敵で、観る人みんなが元気になれるステージができるんだ。


前列に座っていたおばさまたちが、
「本当は、夜のメインパフォーマーとして招待したかったけど、かなりの人気グループで、この昼の枠しか空いてなかったらしい」って噂話をしていた。

うん。そりゃ引っ張りだこになるよね。納得。

流星や真澄くんも、
釘付けになっているようだった。


「いやーーー!最高だった……!」

「ですね…。俺多分、ずっと口あいてました。すごすぎて」

「あは、確かにあいてたかも」

「まじかっけぇ。オレもあんな声出してみてぇ」

「ええ…」

いつもだるーんとしてる流星から、
突然発せられるソウルフルボイス……
うーん。想像できないから、是非チャレンジしてみてほしい。


「2人とも、付き合ってくれてありがとう」

『ぐぅ』

誰かが、お腹で返事した。
…私の音だったかもしれない。


現在14:30。
家を出る前に軽く食べてきたけど、
パワフルなステージだったこともあって、
全員お腹が空いていた。


凛が来るまでに全ブース回ってしまうと面白みがなくなるので、
一度、駅に戻って腹ごしらえをすることに。


そこで。

ふと、あることに気が付いた。


「ねえ、今までで一番嬉しかったクリスマスプレゼントは?」

「んー、俺はスパイクかなぁ」

「へー、どんなの」

「あ、写真あるで。コレ」

「おー。かっけぇ。黒だ」

「斉藤は?」

「オレはゲーム。ラスファン」

「え、ラストファンタジー?俺もやっとったで」

「まじ?相棒何?」


………やっぱり。

いつも喧嘩ばかりの2人が、
私を間に挟みながらも、
少しずつ、普通の会話をするようになっている…!!


あのステージが
良い影響を与えてくれたに違いない。

なんか今、ジーンときてる。
我が子の成長を喜ぶ両親の気持ちって、こんな感じかな……。



しばらく駅周辺で時間を潰していると、
凛から『到着した』との連絡が。


「みんなーっ!お待たせー!
あーんど、メリクリー!!」


これで、ようやく全員が揃った。

にしても…
補習を受けて、一旦帰宅をして、着替え等を済ませて、そこから駅に向かって……と、
なかなかのハードスケジュールのはずなのに。
凛はいつでも元気で、凄いな。


時刻は、まもなく17:00をむかえる。
空はうっすらと暗くなっていた。


「あ、凛。あと10分で、点灯式はじまるみたいだよ」

「ええ!?大変っ!それは見なきゃだ!
全員、急げー!!」

「ちょ!笠井先輩、どこ行くんすか!こっちです!」

「凛ちゃんヤバ。真逆じゃん」


……あぁ。
なんてドタバタなクリスマス。
いつもの学校生活と、まるで違う。

思いつくまま、行動して。
そこには、自由しかなくて。
みんなが笑ってて。


こういう時間も、大切にしたいな。