「すごいすごい!
あ!あのオーナメント写真撮りたい!」
柄にもなくテンションが上がって、
小走りになってしまう。
「しーちゃん。そんなハシャいだらコケるよ」
「だって……あっ!
みてみて2人とも!可愛いのがいっぱい!」
私は、露店に並んでいた、
ミニチュアな雪だるま型の陶人形たちを指差した。
「わーほんまや。色んな形ありますね。
あ、こっちのガラスのツリーも可愛いですよ」
「えっ、どれどれっ?」
真澄くんが教えてくれる方向に顔を向けた。
——その時。
ふと、
1つの小さなスノードームに目が留まった。
ドームの中心に、1本のモミの木があり、
その木の手前で、真っ白な天使が祈りを捧げている。
舞ったスノーパウダーが付着して……キラキラ。
「わ………きれい………っ」
私が、それに手を伸ばしかけたとき。
「ねーねー、しーちゃん。アレ飲みたい」
流星に、コートの袖をつままれる。
彼は、3軒先の[ホットチョコレート]と書かれた看板を、
珍しく両の眉毛を引き上げて、凝視していた。
あー…甘い飲み物、大好きだもんね。
「…しょうがないなあ。真澄くん、甘いの好き?」
「あ、はい。す、好き……ですけど。
…でも、俺は大丈夫なんで、もうちょいココ見ててええですか?」
へぇ、意外だ。
真澄くんは、こーいう雑貨が好きなのか。
「うん、もちろん。じゃあすぐ戻ってくるね」
流星と一緒に、お目当ての露店へ訪れると、
付近は、魅惑的なチョコレートの香りに包まれていた。
幸い、そんなに長い列は出来ておらず、
5分程度並んで、レジへ。
流星は、店先に置かれたメニューボードから、
[マシュチョコレート(カップ付き)/800円]を注文した。
赤い靴下型の、可愛いマグカップに入ったホットチョコレート。
陽気な店員さんから受け取り、邪魔にならない位置へと移動する。
トッピングのマシュマロが、
アツアツのドリンクの上でとろけていて、美味しそう。
…けど、流星は猫舌だから、
外気に触れさせて飲み頃を待っている。
「えっ。このマグ、返却せず持って帰ってもいーんだ?すごいね!」
ご丁寧に、持ち帰り用の袋と、
洗浄ブースまでも用意されている。
「それなら、私も買えばよかったなぁ…」
「飲んだら、オレのあげる」
「えっ、いいの??
わーい、嬉しい!ペン立てにする!!」
1人で喜んでたら、
流星に、ふっと笑われた。
「…しーちゃん、たのし?」
「うん!
……って。
私、1人だけテンションあがっちゃってて……
…ごめんね?」
流星を置いてはしゃいでしまっている私は、
きっとまた、彼に呆れられているんだろう。
「んーん。
オレもたのしーよ。
しーちゃんが、たのしそうだから」
「えっ」
いつもみたいに「ガキ」とか…
そういう憎まれ口を覚悟したのに。
穏やかに微笑んで、私を見る流星。
その顔が、なんだか大人っぽい。
クリスマスマジックだろうか。
……知らない人みたいで、ちょっと緊張する。
そして彼は、
ようやく丁度良い温度になったホットチョコレートを口にした。
「あ、ウマい」
感動したのか、
普段は無気力な目を、輝かせている。
「ん。しーちゃんも飲んでみて」
「えっ!?いや、私は…」
いつもは全く気にならないのに。
今日の流星が口をつけたマグだと思うと…
なんとなく遠慮してしまう。
「大丈夫、ぜってーウマいから」
ズイと、渡されるマグカップ。
勢いに負けて、ひと口飲む。
あれ。おかしいな………
「どー?」
「ん!?う、うん!おい……おいしい……」
なんでだろ。
味がわからなかった。