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「いやだ」
「…そう。じゃあ仕方ないか。流星は不参加で…」
「いーやーだ。
毎年クリスマスは一緒にしてたじゃん」
「だから、それは25日になったじゃない。
24日の話だよ?」
「イヤ」
「………」
真澄くんと電話した次の日の帰り道。
私は、
この、イヤイヤ期真っ只中の 大きな赤ちゃんをあやすのに必死になっていた。
確かに、クリスマスといえば。
24日もしくは25日のどちらかに、
チキンとケーキを買って、
私とお母さんで斉藤家にお邪魔して、
みんなで楽しく過ごすのが毎年恒例だけど。
すでに流星のお母さんにも話をしていて、
今年は25日にしてもらった…というのに。
「はあ……。
来年はきっと、受験で遊びに行けないだろうから、
今年は、友達と流星とで、楽しく遊びたかったのにな」
今だって、再来週から始まる期末テストで必死なんだから、
受験ともなれば、冬休みに外は出られないだろう。
「友達と、オレと…」
「うん」
「[オレ]と…[友達]?」
「う、うん」
「ふーん…………」
「………何?」
「ま、行ってもいいけど?」
「ええ!?」
…さっきまで「嫌」の一点張りだったのに、
何が彼を変えてくれたんだろう。
でも、色々詮索して気が変わるのは避けたい。
「じゃあ、当日は12時に駅だからね。
あ、それと。テスト勉強頑張ろうねっ!
補習になったら24日も学校来ないといけないかもだし」
「そんなん、授業きーてりゃヨユーだし」
「………そうですか」
この男…
意外すぎることに勉強ができる。
普段はこんなに気怠げなのに、
授業態度も良いらしい。
高校受験のときも、自宅で勉強している様子がまるでなかった。
うち、偏差値高いのに…。
そんな才能を持ち合わせていない私は、
テストまでの約2週間、本気の追い込みをかけた。
そして結果は…
「よし。全教科平均点以上。よかったぁ」
テストの答案用紙がすべて返却され、安堵の息をつく。
無事に補習は免れた。
最後に返された世界史が、ちょっと心配だったけど…
ギリギリ平均に乗った。
流星も、きっと大丈夫だろう。
真澄くんは……どうだったかな。
後で聞いてみよ………
「………シ゛オ゛リ゛ィ゛」
終業チャイムと同時に、
地の底から引き出したような声で、
おそらく、凛と思われる人物が、
おそらく、私の名前を呼んだ。
フラフラしていて、
倒れかけのゾンビみたいになっている。
「え。凛…?何、どうしたの…」
「二゛ク゛イ゛……」
「ええ?」
「数学ガ……!憎イ………!!!!」
「ま、まさか……!」
凛に手渡された、回答用紙に目を向けた。
「…………な、なにこれ」
91、92、89、94………って。
…………ほとんど90点以上じゃないか!
しかし。
「……ん?」
他の用紙を隠れ蓑とするように、
一番後ろに仕組まれた答案用紙に気づく。
一度丸めたのか、クシャクシャになってしまっている。
えーと?
これは…数Ⅱの答案用紙か。
点数…………が…………
「……じゅっ…………12点……!?」
「えーん」
いくらなんでも、振り幅がすごすぎる。
「え、いつもこんなんじゃなかったよね?」
「ウン。
前から数学だけは、頑張っても平均ぐらいしか取れなかったんだけど……。
今回、テスト勉強期間が、推しのライブと被っちゃって⭐︎」
ちゃって⭐︎、じゃないよ。
ん?ちょっと待って。
数学は別として、他については、
素の力でこれってコト?
流星といい、凛といい………恐ろしいな。