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「クリスマスマーケット…っすか」
「そーそー。
去年、他校の彼女と行って…あ、コレ内緒な。
越してきたばっかの純は知らんだろーけど、
あそこのやつ、結構規模でかいし良んだよなー。
電車で30分くらいだし」
土曜の練習試合終わり。
快勝して、ご機嫌で着替えをする部員たちが、
今年のクリスマス何をするかって話で盛り上がっとる。
にしても、この先輩…。
付き合っとる彼女がおるとか、
先生おらんのええことに、暴露しすぎや。
どんだけ気ぃ大きなってんねん。
……俺、それどころやないんやけど。
泣きそうな栞さんの顔が、
試合中も、今も、鮮明に脳内再生される。
最近調子乗っとったから、バチが当たったんや。
栞さんの校則を守りたいって気持ち、
尊重したいって、思っとったのに……
はぁ。ほんまやってもた……。
もっと早く自分を戒めとけば、こんなことには……
「何その浮かない顔。
純、お前も彼女作って行ってこいよ」
ええ……もう無敵やん…。
「…俺に無茶言わんでくださいよ。
とゆか、なんなんすか、
そのクリスマス…なんだかって」
「マーケットな。お祭りだよ。
そこら中キラキラしてるし、でっかいクリスマスツリーがあったりとか、いろんな露店でたりとか。特にソーセージが最高にうまい。
彼女は、可愛いマグカップ買って幸せそうにしてたよ」
「へぇ……」
…幸せそうな栞さんは見たいけど、
その目的を達成するんには、状況が悪すぎる。
このままじゃ、一生口聞いてもらえへんかもしれん。
クリスマス一緒に過ごすなんて夢のまた夢や。
許してもらえるかわからんけど、
とにかく謝るしかない。
………なんて考えてたから、
次の日の練習終わり、自分の部屋に入った直後、
電話がかかってきたときは…心臓止まるかと思った。
スマホの画面に栞さんの名前が見えて、
脳が指令を出すより前に、反射で応答ボタンを押していた。
「昨日のこと、忘れたりしません。
栞さんを困らすようなことせーへんために。
もう迷惑かけません」
そう。俺が卒業するまでの2年間は、
清く正しく良い後輩になるんや。
『純、お前も行ってこいよ、クリスマスマーケット。』
頭ん中で、悪魔…もとい、先輩の声が囁く。
やめてくれ。
俺はもう決めたねん。
でもキラキラのイベント会場の中…
キラキラのクリスマスツリーの下で…
かわええコップ抱えてる栞さん………
絵に描いたような幸せなんやろな………
「迷惑なら、やめますけど……。
く、クリスマスマーケット、いきませんか…?」
いや、意思弱!
…自分はもっと有言実行できる奴やと思ってた。
どうしても諦めきれんかった。
こんな欲望に弱い奴やったとは、びっくりを越して失望や。
『私と2人で行って楽しめる?』
そんなん……当たり前やん。
逆に2人で行かな、楽しないですよ。
…って。昨日のことがなければ、
言ってもーてたかもしれへん。
…いや流石に言えてなかったかもしれん。
結局、笠井先輩と……アイツも呼ぶことになってもて、
思ってた形とは違うけど。
栞さんと一緒に過ごすクリスマス。
めちゃくちゃ浮かれてまいそうや。
実際に浮いとるわ。
…補講ならんよう、テスト勉強しよ。