悩み相談が終わった後は、
凛のブームだと言う推しメンを、
ひたすら動画で紹介してくれた。
満足した様子の彼女が帰った頃には、
時計の短針が、数字の6の位置を通過していた。
…そろそろ真澄くん、部活終わった時間かな。
あ、いきなり電話するのはよくないよね。
まずはメッセージ入れてから………
わわ。緊張で、ちょっと指が震えている。
LINKアプリを開き、
真澄くんのルームを選択する。
…ふと、手元がブレて——
「あっ、ぅわ！！おおおおお押しちゃった……！」
——誤って、通話ボタンを押してしまった。
急いで切電を押そうとする、けど。
『は、はい…！
……えと……あれ。………栞さん？』
スピーカーからわずかに漏れ聞こえる声。
もうすでに電話が繋がってしまっていた。
かけてから2秒くらいしか経ってなかったけど……。
応答するの早くない？
「あ、ああああの……真澄くん、ごめん！
間違って押し……いや、間違ってはないんだけど…！
部活を終わってから…
いや、メッセージが先に…！
ん？部活が先で、メッセージが終わってから……っ」
『わ！え、えと、栞さん落ち着いて！
ゆっくりでええですから！』
「……ご、ごめん」
『……や、ゼンゼン』
はじめて聞く、電話越しの声。
いつもよりちょっと低く感じる。
…少し、深呼吸する時間をいただく。
「…ほんとは電話する前に、メッセージ入れようと思ったんだけど…手が滑って……。
今大丈夫だった？」
『は、はい。ちょうど家ついたとこやったんで…』
「よかった。
…あの…それで……
き………昨日……のこと、なんだけど……」
「……本当にごめんなさいっ」『……すみませんでした！』
「えっ？」
予想外に声が重なってびっくり。
「真澄く…いまなんて…なんか、謝らなかった？」
『俺…
栞さんのこと何も考えんと、自分のことばっかで…
ほんと、すみませんでした。』
「えっ？いやいや！！
なんで真澄くんが謝るの」
『だって………嫌な思い、させたでしょ』
「へ？」
『栞さん、泣きそうな顔しとったし』
…確かに。昨日もそうだった。
真澄くんといると、心の奥があつくなって、
なぜか泣きそうになることがある。
でもそれは、決して…
「違うよ！嫌だったから、なんかじゃないよ！
……でも…じゃあなんでだったのかってのは、
うまく説明できないんだけど…」
『…俺、嫌われたんやないんですか』
「そんなこと、あるわけないよ！！
嫌われたと思ったのは、むしろ私の方…
…と、とにかく！大事な試合前に、あんな態度とって本当にごめんなさい」
『………。』
「……勝手なことばかり言って申し訳ないんだけど、できれば昨日のことは忘れてほしい。
そして、今度また埋め合わせに行かせてほしい…！」
『…………。』
しばらくの無言。
身勝手な私の発言に、呆れて声も出ないのかもしれない。
もう私には、観にきて欲しくないのかもしれない。
…当然か。
