「………」

「……………???」


お互いに無言の時が流れる。


えっと……。
これ、どういう状況…??

多分、呼び止められたんだと思うんだけど…。


何も話さないし、
ついでに肩も離してくれない見知らぬ男の子。
私は驚きと若干の恐怖から、言葉を出せずにいた。


…でも。とりあえず、
私に危害を加える気はなさそうだな?


「…………あの… な、なにか…?」

心を少し落ち着けてから、
恐る恐るコミュニケーションを図ってみる。


すると目の前の男の子は、
ビクッと自身の肩を上下させ、
なぜか驚いたように、私の肩を掴む自分の手を見た。


…と同時に、
その手をバッと自分の頭の上にあげて……
降ろして………
そのまま俯いてしまった。


うーん。
コミュニケーション・エラー発生。
というか、なんか忙しない人だな。


「…あの?
もし用事がないなら、急いでて…
「名前っ!」

「っえ!?」


突然、私の言葉を遮り、大きな声を出す少年。
今度は私がビクッとした。


…ナマエって言った?
…なんの?


キョトンとしていると、
彼は、3回も深呼吸を繰り返したのち、
勢いよく顔をあげた。


わ、綺麗……。

私を射抜くようなまっすぐな瞳と、視線が合う。


「い、いきなりすんません…
あ、あの…その…

な、名前、教えてくれん……っですか!?」


………ああ、なるほど。 


聞き慣れない、独特なイントネーション。

確かにこれなら、
すれ違っただけでも、一言聞いていたなら、
すぐ関西弁だってわかるかも。


私は、彼の問いかけに答えもせず、
そんなことをぼんやりと、どこか冷静に考えていた。


「あ、あの……?」


ハッと気がつく。
赤ら顔の彼が、焦っているような険しい顔で、私を見ている。


「あっ…ご、ごめん。
えっと…名前って……
あの、私の名前、ってことかな?」


目の前の彼は、
勢いよくウンウンと頷く。


「田中です。田中栞」

「…た、たなか、しおりさん……」


「うん。多分、君が転校生くん…だよね?

君と同じクラスに、私の幼馴染がいるの。
仲良くしてあげてね。

…っとごめん、
そろそろお昼買いに行かなきゃ」


…残り時間が気になって、
少し一方的になってしまった。


棒立ちの男の子の様子は気になるけど、
凛がどんな顔しているかも相当気になる。
…だって、絶対怒ってるもん。


男の子に背中を向け、購買方面へ一歩踏み出した。


「あ!たな……えっと……
…っし、栞さん!俺、真澄です!」


背後から、上擦った声が聞こえる。


真澄 純(ますみ じゅん)
覚えとってください!」


その一生懸命な声に驚きつつ、
ちょっとおかしくって、
自然にふふっと笑みが溢れる。


そのまま振り向くと、
彼の目が少し見開いたような気がした。


「了解。またね、真澄くん」


今度こそ私は、目的地へ向かった。


…今更ながら、
なんで初対面の私の名前なんて、
知りたかったんだろう?


どこかで会った覚えは……
例えば、昔の知り合いとか……

うーん。ないな。まあいいか。


とにもかくにも、昼食の購入に無事成功し、
出来る限り急いで教室に戻った…が。

案の定、全て食べ終えてしまっていた凛に、
「遅い」と怒られてしまった。