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「え。ちょ、どこいくのしーちゃん」


アイツとなんか話してたしーちゃんが、
急にオレ(斉藤 流星)を追い越して、
コートとは反対方向へ向かっていく。


「…流星。ごめん、私帰るね」


…はあ? 

アイツ、何言ったんだ。
話してる内容、もちろん気になったけど、
間に入るとまた怒られそうだし、やめといたのに。


「そんなん、オレも帰るに決まってっし」

「…ごめん、せっかく来たのに」


「なにがあったの」「なに話したの」なんて、聞いてもだめ。
こーゆーときの、しーちゃんは言ってくれない。


アイツとの約束〜とかムカツクこと言って
ここまで来たしーちゃんが、
それを放棄して帰るなんて。はじめてすぎ。

オレ的には喜ぶトコだけど、
しーちゃんの浮かない顔、全然おもんねー。


「しーちゃん、帰ってなんかすんの」

「…や、決めてない」

「じゃ、あっこいかね?」

「…!」


しーちゃんの顔が、ちょっと晴れた。


明確に言わなくても、ドコなのか伝わる。

気分転換すんのに、最高の場所。


「…いいね。いこ」


家から歩いて15分。

視界いっぱいに広がる青空。

フェンス越しに見える、
でっかいアスファルトの滑走路。

真上を通る、すげー迫力の、鳥みてーな飛行機。


ガキの頃からオレら2人で、よくここに遊びに来た。
空港近くの、芝生の土手。


なーんもねーとこだけど、
2人で一緒に寝転んで、
飛行機が通る時の風や音を浴びながら、
だべったり、ゲームしたり、昼寝したり。


ケンカして、1人でここにきても、
結局しーちゃんもここに居て、
気づけば仲直りしてる。そんな場所。


「はー…やっぱここだよね。
…ちょっと寒いけど」


ワンピースきてんのに、
大の字で寝ころぶしーちゃん。
まじ、2人きりじゃなかったら怒ってたよ。


「パンツ見える」


オレは羽織ってたコートを、
バサっとしーちゃんに被せた。


「わ!………あったか。
でもこれじゃ流星が寒いじゃん。
ペチパンツはいてるから大丈夫だよ?」

「や、暑いからイイ。
ってか、なにそれ。ペチとかってやつ」

「なんか…んー…薄いしゃわしゃわのズボン。あ、見る?」

「みねーよ。バカ。…もっと気にしろよ」


無防備なしーちゃんに、
嬉しいと、ムカツクが半分ずつある。


「ねー、流星」

「なに」

「……ずっと今のままでいたいと思わない?」

「はあ?」

「いやー…この先さあ…
いろんなことが変わっていくのかなって思うと…
……怖いなって」


そんなん、オレの答え、決まってんじゃん。


「オレは早く大人になりてーよ。
変えたいもんあるから」

「それって……」


はじめは不思議そうにしてたしーちゃんが、
なんか気づいたらしく、黙った。


「…はぁ……… 私、いつまでも子供のままだなぁ……。
流星や、周りのみんなのほうが、先に大人になっちゃいそうだよ……」


珍しくウジウジしてる。


「あのさぁ…
しーちゃんが何に悩んでんのかしんねーけど。
そんな怖いことねーよ、ゼッタイ。

それに。
しーちゃんを置いていったりしねーし。オレは」


「……………ほんと?」

「うん」

「ほんとに?」

「…」

「ね、ほんとに?」

「……しつけぇ」

「……ふふ」


しーちゃんが笑う。
しーちゃんと一緒に、オレも笑う。


オレだけが、この笑顔を作れるならいーのに。