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『ピンポーン』
土曜日の朝、出かける準備中。
もうすぐ用意が整いそう…なところで、
私の家のインターホンが鳴る。
きっとお母さんの荷物だ…。
新しい美容液買ってみたって、
ルンルンで言ってたもんな。
出発時間まであまり時間がないから、
自分で受け取ってほしいところだけど、
お母さんはすでに出かけてしまった。
急ぎ足で階段を降り、
すぐに押せるよう、印鑑も手にとって…
「はーーーい、いつもありがとうございま……」
ドアをあけると…
「……ってあれ?配達、じゃない…」
立っていたのは…
隣の家の幼馴染、流星だった。
「……しーちゃん。
誰かわかんないのに開けちゃダメじゃん」
「う……だって、荷物だと思ったから……」
「ってかなにそのカッコ。どっかいくの」
「う、うん…まあ………」
今回も、流星には試合観戦のことを話していない。
別に言ってもいいんだろうけど………
「そ、それより、流星はどうしたの?なんか用事?」
「しーちゃんと遊ぼうと思ってキタ。
んで?誰とでかけんの?凛ちゃん?」
「や…違う。1人、だけど…。用事あって」
「ふーん…」
ごめん流星。
やっぱ、なんとなく言い辛い。
これで諦めて帰るだろう…
「じゃオレもついてっていー?」
「えっ!?いや、それは……えっと……」
「…なに?まじ。どこいくの」
流星が、ジトっと私を見る。
『栞さん一人に来て欲しい』
あの時の真澄くんの言葉と、
流星に対する謎の罪悪感が、
私の中でぐるぐる回る。
…なぜ、私がこんな思いをしなければいけないんだ?
「…………学校」
「は?学校?土曜なのに…しかも私服で?」
「そう。……試合があるの」
「試合…………。
………もしかして、サッカー?」
私は、無言で頷く。
「………………」
流星の目が見れない。
なんか大きな圧を放っている気がする。
「…どーしても行くの」
「…う、うん。約束したから…」
「…………オレもいく」
「う…………わかった」
そんなに不服そうな顔するならやめればいいのに
…とは言い出せず。
これはもう、不可抗力だよね。
私に止める権利はないし…。
「…じゃ、ちょっと中で待ってて」
流星に玄関内で待ってもらい、
自室に戻って、最後の身支度を終えた。
階段を降りて、家を出る…前に、
私には日課がある。
「あ、待って。しーちゃん、オレも」
「………いつもありがとう」
「や、オレがしたいだけだし。おジャマします」
流星と一緒に、1階リビング横の和室へ。
お父さんの写真を置いた仏壇に手を合わせる。
私にとって、出かける前の大事なひと時。
……真面目で優しいお父さんだった。
いつも通り仕事へ行って、
あとは帰ってくるだけだったのに。
もう2年になるけど、
こうして手を合わせていても、
あまり実感がなくて…
あの事故は夢だったんじゃないか。
「ただいま」って言って、
いつものように玄関のドアがあくんじゃないか。
…なーんて思ってしまう。
もうそんな日はこないけど。
流星は、私の家に寄った日はいつも、
こうして一緒に手を合わせてくれる。
その横顔に、いつもの憎らしさや生意気さはない。
姿勢を正して、静かに目を閉じて…
きっとお父さんを偲んでくれているんだろう。
同じように大事にしてくれてるのがわかるから、
この姿をみていると、心があったかくなる。