「え………」


『何を?』って……
聞きたいけど、聞いちゃいけない気がした。


なぜかわからないけど、
引き返せなくなりそうだったから。



「そ…………そ、そっか……?」


「はい……」


「「……………」」


「………っあの…!

……や…………帰りましょか」


「……う、うん」


「「…………………」」


………き、気まずい。
今までで一番沈黙が重い気がする。


こんなとき、どうするのが正解?



「………どうでしたか?」


「えっ?!
ど……どどどっ、どうって…!?」


「楽しかったっすか、北海道」


「……え。

…………あ……あぁ!!ほ、北海道ね!

うん、すっごいよかったよ。
景色綺麗だし、食べ物美味しいし」

「わーええなぁ」

「来年はどこだろうね?」

「え、毎年ちゃうんですか?」

「そう。アンケートで決まるの。
まあ大抵は、沖縄か北海道だけど…。
九州の時もあったみたいだよ」

「あー沖縄も九州もええなぁ」


…よかった、普通に話せる。


さっきまで真澄くんが纏っていた熱はもう感じられない。
普段通りの彼の様子に、心底安堵した。



「…栞さん。

やっぱこれだけは言いたいんですけど」


「うん?」


「今週末、サッカー部の試合あるんです。
練習試合、やけど……。

………観に来てくれませんか」


「し…あい……………」



『絶対レギュラーなって、ええとこ見せるんで、
栞さん、試合見に来てくれませんか……!』


あの日の美術室での約束を思い返す。
2ヶ月しか経ってないのに、随分前のことみたい。


「…う、うん。もちろん。じゃあ凛といっ…
「栞さん一人に来て欲しい」


私ひとり、に………


「えっと…………なんで?」

「だって約束したの、栞さんとやないですか」

「でっ!でもあの、私、あんまりルールが…」


「それでも…。

ルールわからんでも、
絶対かっこええって思ってもらえる試合にするから。

…………だめですか」


まただ。

またこの瞳。

濁りがなく、まっすぐ私を写す。


……さっきと違って、もう逃げられない。


「あ……う…………

…だ、だめじゃ……ない…けど…」



「…ほ、ほんまですか……!!」



私は静かに頷く。



「…………よしっ」


真澄くんが小さくガッツポーズをする。


………なにその顔。そんなに嬉しいこと?


初めて見るよ、真澄くん。


沈んだはずの太陽が戻ってきたかのような、
すっごくすっごく、眩しい笑顔。


その顔を見ているだけで、
理由もなく、泣きそうになった。