木曜日。
全ての授業が終わり、帰り支度をした。
校門までは、凛と一緒に行く。


「今から渡しにいくんでしょ?」

「うん、一旦帰ってからね」

「流星くんには言ってるの?」

「え、流星に?
言ってないけど…言わなきゃダメなの?」

「えー………待っていま、悩んでる。
どっちに転んだほうが面白いか……うーん…」


凛の質問の意図はわからないけど、
邪なことなんだろうなってことはわかる。
だって、凛の顔がそういっている。


「言わないよ、べつに。
聞かれてもないのに、わざわざ」

「そっかー、そっちのルートね。いいと思う」

ウンウンと頷きながら、親指を私に突きつけてくる凛。

「る、ルート?」

わけがわからず、
その親指を手のひらで押し返す。


「なにやってんの?」

「あ」

「流星くん」


校門にやって来た流星が、
不思議そうに私たちを見ている。
そうだよね、私にとっても謎の光景だからね。


「大丈夫、こっちの話!
んじゃ、気をつけてねー!」

私たちとは逆方向の凛は、
元気よく手を振って帰って行った。


「…なんだったの」

「さあ……よくわかんないけど、気にしなくていいと思う」

「ふーん。じゃ、帰ろ」

「うん」


流星が前を歩き出したとき、
彼の手元に取り出したスマートフォンに、キラッと光るものが見えた。


「あ、それ!」


私が指差したのは、
流星にあげたお土産のうちのひとつ。


真澄くんのとはデザインが違うけど、
同じクマのキャラクターが、
じとっとした目で頬杖をついている、
ご当地限定キーホルダー。


はじめは、
誰が買うんだこんなふてぶてしいクマ……
と思ったけど。

この顔がだんだん流星に見えてきて、
気づいたら、レジにこの子も持っていっていた。


「気に入ってくれたの??」


流星みたいだと思って、と言いながら手渡した時は、
中が見えないラッピング袋に入っていたから、
反応がわからなかった。


真澄くんにもあげるから、
感想が気になってたんだよね。


「や、ゼンゼン。しーちゃんには、
オレがこんなふうに見えてんのか、ってガッカリした」


「え゛」


思わぬ感想に、ショックで硬直した私を見て、
流星はふっと笑った。


「ウソ。ごめん。じょーだん。
ほんとは、旅行先で俺のこと考えてくれたの、嬉しかった」

「ほんと?」

「ほんとほんと」


なんだよかった、喜んでくれてたんだ……


その場の私は、流星の返事に大変満足していた。


…が、自宅の玄関をあけ、
2階にある自室への階段をあがっている途中で気づいた。


……よく考えたらさっきの、
キーホルダーの感想ではないな?


うーん……。
真澄くんに渡すの、心配になってきた……。