「あ!んなことより栞!
今日一個下の学年に、転校生がくるんだよ!」


凛が興奮気味になる。
…学年が違うのに、なんでそんなに盛り上がれるんだろう。


「あー、聞いたよ。流星のクラスなんだって」

「え!そうなの!?
高身長!黒髪!関西弁!の、イ・ケ・メ・ン!らしいよ!!!
事前見学きてる時にすれ違ったって子の証言!!」


…あー、そういうことか。

自称[イケメンウォッチャー]の凛は、
手を組み、目を輝かせている。


「ふーん、転校生って男の子なんだね」

「えー。ぜんっぜん興味なさそう。
ま、そりゃそうか。
栞にはイケメン旦那がいるもんねー」


すかさず「旦那じゃない」と反論したけど、
響いている様子はなく、効果は期待できない。


それにしても……
情報を仕入れるのが早いな。

髪色や身長は一目でわかると思うけど…
すれ違った程度で、使ってる方言まで把握できるもの?


「というか【染髪禁止】なんだから、
黒髪なんて、ほとんどみんなそうじゃない」

「栞はわかってないなぁ。
黒髪の[イケメン]ってのが大事なの!
そこらの男子の話とは違うの!」

「ちょっ、凛!声大きい!抑えて!!」

他の男子生徒の耳に入ったら、怒られちゃうよ!


私が恐々と辺りを見まわしているのに対し、
当の本人は全く気にしている様子がない。


「イケメン転校生…絶対見たい!!
はぁ…いつになるかなぁ。
なんでうちの学年じゃないのー!」

「うちの学校、あんまり他学年と会えないもんね」

「そう!フロアにもいっちゃダメとかさぁ…。
ほんと窮屈っ」


…しばらく文句を言っていた彼女だったが、
黒板上の時計を見て「あ」と漏らす。


「ってことで栞!
流星くんに、転校生と友達になったらアタシに紹介してって言っといてね!」


そして、元気に自席に戻って行った。


同時に8:40の予鈴が鳴り、
校則通り私も【予鈴で着席】をする。


今日も、規則通りの高校生をやれていることに安堵した。


私にとっては、イケメンだの、転校生なんかよりも、
そのことのほうが重要なんだ。