「みんな!お疲れさま」
全員役目を終え、私たちは約束どおり、午後に合流した。
…流星と真澄くんは、心なしかゲソっとしている。
「ねえ流星。結局、なんのコスプレしたの?ぜんぜん教えてくれなかったけど」
「またその話?いーじゃん、なんでも」
「だって。そんな隠されたら気になるじゃん」
「ああ。そいつ、牧師でしたよ」
「ぼ、牧師…?!流星が……?」
「言うなよ、バカ」
「えー、じゃあ純くんは?なにしたの?」
「…もうええんちゃいますか、その話は」
「は、言ってやれよ。ホストだろ?にあわねー」
「ほ、ほ、ホスト!?真澄くんが!?」
「言うなよ、アホ!」
うーん。
穏やかに礼拝や人々の手助けをする流星…
それと、
スマートに女の子へバラを差し出す真澄くん…
ますます想像がつかない。
全員お腹ペコペコだったので、
まずは屋台で腹ごしらえ。
安定のたこ焼きや、唐揚げ。どれも美味しい。
売り上げ貢献のため、チヂミも買って。
チーズハットグなんて初めて食べたけど、美味しいし面白い。
そんな調子で、しばらく楽しんだ。
「さ、次はどこいこっか!」
意気揚々と、南条祭MAPを広げる凛。
しかし、私にはやるべきことがある。
「私、ちょっと抜けて別館いってくる。大体の行き先だけ教えて?」
無人で良いといっても、
部長として、流石に一度は美術部の展示の様子を見にいかないと。
「美術部でしょ?オレもいく」
「や、俺も行きたいです!」
「アタシも!!」
「ええっ…あんまり面白くないかもよ?」
「んなわけねーじゃん」
「俺、めっちゃ見たいです」
「栞の作品好きだよ」
「…わかった。その代わり、大人しくしててね」
「はぁい」「ハイっ」「はーい!」
…三者三様の返事が聞こえ、私たちは別館へ向かった。
美術室に入ると、数人のお客さまが。
みんなの頑張った成果を見てもらえており、ほっと一安心。
この南条祭のために用意したメインの作品は、
作者の名前入で、部屋の中央にドンと展示している。
脇には、小さめの作品たちをチラチラっと飾っている。
「あった、栞の作品!
キレー!これ、どこ?実際にあるとこ?」
「…ありがとう。うん、これは小樽運河だよ」
「うわぁ。来月いくんスよね。こんな綺麗なんや、ええなあ」
私は、来月の修学旅行で訪れる北海道で、
最も楽しみにしている小樽の風景をメインの作品にした。
楽しみの気持ちが筆に乗り、上手い下手は置いといて、自分の中で味のある作品になったと思う。
…でも、こんなまじまじと見られると、
やっぱちょっと照れるな。
「ね。これ、しーちゃんのでしょ」
流星が指差したのは、脇に飾られた小さな絵。
ステンドグラス調で、1冊の[本]が描かれている。
「えっ、なんでわかるの?」
脇の作品たちには、作者の名前は書かれていない。
でも、流星の言うとおり。私が描いた作品だ。
「そんで、来年は、”シオリ”でしょ?」
「なんでわかるのー!?」
「はは。わかるよ、なんでも」
昨年もここに、同じスタイルで、アンティークな棚を描いた。
誰にも言ってないけど、それは[本棚]のつもりだった。
そして今回は、そこに収納する[本]。
来年は、そこに挟む[栞]を描くことで、
自分の中だけで連作の完成、とする予定、だったのに。
怖いくらい見透かされている…。
いや、よく見てくれてるのか。流星が。
「流星…」
「ん」
「いつも見てくれてありがとっ」
「………ん」
精一杯の笑顔を作ってお礼をしたはずなのに、
目を逸らされてしまった。