「栞ー!ごめんけど、宣伝用看板追加するから、
余ダンボール持ってきてくんない?」


現在私は、自クラスの模擬店準備に参加している。


私と凛のいる2年3組では、
「王道じゃなくて、ちょっと変わった模擬店にしたい」
との意見があがり、
グラウンドの一角で、『チヂミ』を販売することになっている。
ノーマルと、チーズ入りの2種類販売予定だ。


「うん、もちろん」


凛におつかいを頼まれ、一旦作業を中止する。
教室を出て、中庭にある臨時の共同資材置き場へと向かう。


廊下の突き当たりを曲がり、
階段を降りようとしたところで、
踊り場に、見慣れたふわふわ頭が。


「あっ、りゅうせー…
「斉藤くん」


私が流星を発見し、声をかけようとした、と同時に、
聞き慣れない声が聞こえた。

死角で見えなかったけど、
女の子と一緒にいるようだ。


私は呼びかけようとした言葉を、咄嗟に引っ込め、
なんとなく、2人から見えないところに身を潜めてしまった。


「ごめんね、こんなとこに連れ出して」

「…ナニ?」

「あの…もしよかったらさ、
南条祭、一緒にまわれないかな…?」

「あー……、ごめんけど、もう約束ある」


忘れてた。一応、流星もモテるんだった。
真澄くんには、他の子と回っていいよって伝えられたけど、
流星に言うの忘れてた。

でも、今私が出て行って「他の子と行ってきてもいいよ」なんて言うのはおかしいよな…。



「…それって男友達?もしそうなら…」


彼女は、深く呼吸をした。
なんだか緊張した空気が伝わってくる。


「私…斉藤くんが好き!
だから、彼女にして。私を優先してほしいの」


え…えええ!
この緊張感、まさかとは思ったけど…
こ、こ、こ告白じゃないか!初めて見た!


そしてなかなか、強気な申し出。
…きっと容姿が整っている子なんだろうな。
顔は見えないけど。


というより、こんな堂々と伝える子もいるんだ。
先生に見つかったらどうするんだ。


ハラハラしながら、現場をのぞいてみると…
流星が、軽く息を吐いているのが見えた。


「あのさぁ、
せんせーに聞かれたらだりぃから、
あんまそゆこと、こんなとこで言わないほうがいいよ」

おお。言い方は良くないけど、
珍しく、流星が真っ当なことを言っている。
言い方は良くないけど!!


「それにオレ、好きな人いるから」


え。


「そっか。それってあの人………

…ん、やっぱいいや。
わかった、諦める。ありがとう」


悲しそうな声でそう呟くと、
小走りで去っていく女の子。

廊下は走っちゃ…って、
そんな声をかける暇はない。


…彼女にも、私にも。