「おまたせ」

お手洗いを済ませ、2人で席に戻ると、
真澄くんが、困ったような顔をしていた。
…凛に何か言われたのかな。


「さて。始めますか!
流星くんも、純くんも、準備いーよね?」

2人が頷く。

「ねえ、ほんとにやるの?」

「んもー、ここまできて何言ってんの。
栞はソコで座って見てて」

強制的に着座させられた。


そこからの展開は目まぐるしかった。


2人とも、流れるような速度で投げ続ける。
スペアを取ったと思ったら、
ストライクが出て、
スペア、またスペア、そしてストライク………

そして気づけば、これから最終フレームに突入する。


9フレーム目までの戦績は、
流星が157点、真澄くんが166点。
すでに、私からするとどちらもバケモノスコアだ。
真澄くんが優勢に見えるが、まだまだわからない。


迎えた最終10フレーム目。

先行、流星の戦績は…
1投目は、8本。
2投目は、残りの2本倒してスペア。
3投目も、8本。
合計点数は185点になった。


真澄くんは、
1投目は、変にカーブがかかってしまい、3本。
2投目で、次に繋がるスペア。
ここまでで、179点。


つまり、この後の最終投球で、倒したピンが、
5本以下なら、流星の勝ち。
7本以上で、真澄くんの勝ち。


「純くん、ラストラスト!気張れー!」

凛が盛り上げている。
私は、静かに見守る。


真澄くんがちらっと私の方を見た…と思ったら、
すぐに背中を向けた。


そして、1回、深呼吸をし、
10本のピンの方向へ踏み出した。


ボールを持った真澄くんの右腕は、
まっすぐなスイングラインを描く。


すごく綺麗なフォーム。


白いピンめがけ、ボールがリリースされるまで、
なんだか、世界がスローモーションに見える。



パコーン!

という音で、そんな錯覚から脱した。
勢いよく転がった球が、ピンに命中していた。