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トイレに向かう2人の背中を眺めながら、
俺は、考え事をしていた。
さっきから、ずっとイライラが止まらへん。
ただの幼馴染のくせに、
身勝手な独占欲丸出しで邪魔してくるし、
すぐケンカ売ってくるし。
あんな自慢げに言うてこんでも、靴のサイズなんて、知らんくて当然やろ。
ほんでトイレも1人で行けへんのかいな。
ああもう、ほんま腹立つ……
「純くん、顔コワ」
急に声がしたので顔を上げると、
おもちゃを見つけた子供のような表情の笠井先輩が。
一瞬、人がおること忘れとったから、
ビクッとしてしもた。
「あははっ。ねえ、
栞のこと好きなんでしょ?」
「し!?えっ、す…!な、なななな、な……なんでっ……」
「てか、隠してるつもりないよね?バレバレだよ」
「ば、バレバレ…!?」
「ああ。大丈夫大丈夫、
当の栞はまっっっっったく、気づいてないから」
安堵したと同時に、
「まったく」の重みに肩が沈む。
「で?転校してきてすぐなのに、なんで栞なの?」
「それは……その………」
「え、まさか。一目惚れ?」
「……………」
俺は、笠井先輩のギラッギラした目を見続けれんくなり、顔を背けた。
言葉は出ん代わりに、汗が流れはじめる。
「そうだったんだぁ。一目惚れね。栞、可愛いもんねぇ。納得納得」
……無言の肯定、と捉えられてしまったようや。
実際そうやけど。
「でも、高校生の間は、何にもならないと思うよ?いいの?」
以前にも直接言われた。「校則を守りたい」って。
やっぱりアレは、俺への牽制とか、口実とかやなくて、
栞さんの純粋な気持ちなんや。
「ええもなにも…
別に、どうこうなりたいってワケちゃうんです。いや、確かに今よりは仲良くなりたいですけど…」
「…ン?付き合いたくはないってこと?」
「つ、付き合うとか…あんま、ようわからんので…。ただ、もっと近くにいて、笑顔を見てたいな、とか。
ちょっとでも俺のこと見て、考えてくれたらええなとか。それくらいで……」
「ふーん。じゃあ、栞が流星くんと、コイビトになっちゃってもいーの?」
「それは絶対イヤです。なんかイヤです」
思ったより強く否定してもうた。
笠井先輩に声をあげて笑われる。
「純くんが卒業するまでだから…
少なくとも、あと……いち、に…、2年半か。長いねぇ。それに…流星くんは手強いよ。
純くんモテそうだし、他行った方がいいんじゃないの?」
「他て……。そんな器用にコントロールできるんなら苦労せん…です。
俺、今もう、なんでかわからんけど、栞さん以外の人のこと、考えられへん…の……で……」
あかん。言うてたら恥ずかしなってきた。
俺は何をペラペラと喋ってんねや。
「あはっ、純くん顔真っ赤!
うんうん。思ってたけど、やっぱ、そういう不器用なとこ、栞とお似合いだと思う!
がんばれ少年〜っ」
応援されてしもた。
言われてみれば。
栞さんが好きなんは確かやけど、
どうなりたいとかは、まだ考えたことなかった。
2年半、俺はきっと待ち続ける自信はある…。
やけど、その先は?将来の確証はない。
いつか諦めるときがくるんやろか。
頭から、栞さんの笑顔が離れん今は、想像もつかへんけどな…。