「へ?」


彼の予想外の提案に、
すっとんきょうな声が出てしまった。


「す、すんません!
嫌やったら、全然、大丈夫なんで!!」

「別に、嫌では……ないけど………」


そんなことでいいの?とか、
この先、私に連絡する用なんてできるの?とか。
色々と疑問は浮かんだ。


……でも、その疑問を口には出せなかった。


だって……
私の言葉の続きを心配そうに待っている彼の姿が、
まるで、マテをくらっているワンちゃんみたいに見えたから……。


「わかった。いいよ。
あ。でも、どうやって伝えよう。
ここじゃ携帯出せないし、書くもの持ってないし…」


ふと、
流星から聞いてもらえばいいのでは、
と閃いたけど……。


うーん。やめといた方が良いだろな。
昨日のあの様子じゃ、
流星が真澄くんに失礼な態度をとりそうだ。


「あの……俺、覚えられます。
絶対、忘れません!」

「えっ。……そう?」


真澄くんの真剣な瞳に負けて、
私は、 LINK(メッセージアプリ)のID『0215shiori』を伝えた。


誕生日と名前の軽率な組み合わせ。
私にとっては簡単で覚えやすいけど、他人にとっては違うはず。


ま、忘れてしまっても大した支障はないか。


「わ!もうこんな時間」


気づけば、昼休みの残り時間が少なくなっていた。
私は慌てて、自分の目当てのミルクティーを買う。


「飲み物、本当にいいの?」

「はい!!!!」


あまりの元気良さに、
お言葉に甘えることにした。


「じゃあ私、戻るね……あ。」

「?」

「…ふふ。
もし飲めたら、いつか教えてね。ソレの感想」


彼の手の、緑の缶を指差した。


「うっ……ハイ」

右手で頬をかきながら、
気まずそうに返事をする真澄くん。


これは………。
飲む気……なかったな?


その姿も面白くて、また笑ってしまった。