体育館付近に到着し、
自動販売機の裏手から正面へ回ろうとしたところ、
チラッと誰かの足元が見えた。


あ、先客がいるのか。
真後ろに並んじゃうと、
急かしてるみたいになるよね。

ちょっと離れとこ。

Uターンで自動販売機を背にした。


………その時。


「うわっ!!!!!?」『ピッ』

背後から聞こえてくる、
驚いたような大きな声。
と、同時に鳴る高めの電子音。


「!?」

その大きな声にびっくりして、
私は思わず振り返る。


「あ」


そこには、
目をまんまるにひらいて、
こっちを見ている真澄くんがいた。


「真澄くんだったんだ。
……ごめん、もしかして驚かせた?」


「い…いや、ちゃうんです!
ちょうど栞さんのこと考えとったからびっくりし………いや何言うてん俺!
えっと、そやなくて……!!」


うーん。
頑張ったけど、早すぎて聞き取れなかった。



「ところで………いいの?」

「へ?」


私は、電子音の発信元である、
自動販売機を指さす。


「飲み物、買ったんだよね?」

「そ、そや。俺、勢いで押してもて……

………え」


購入品を取り出した後、真澄くんは、
自分の手元を見つめたまま動かなくなってしまった。


「?」


彼の手元の缶を覗き込むと……


ドーンと楷書体で

[青汁]

と書かれていた。
抜群のインパクト。


「あお………じる……………」

「……そ…っスね」

「一応聞くけど………飲みたかったの?」

「いや、そんなこと……
や……そう………っすね」


絶対嘘じゃん。


彼は、この世に絶望したような顔で、
手元の緑の缶を見つめている。


「…ふっ」
私は、思わず吹き出してしまった。


「………ふふ」
あ、やばい。抑えなきゃいけないのに。


「ぷっ、あはははっ!」
……だめだ、ツボに入って、もう止められない。


私は、また真澄くんを置いてきぼりにして、
ひとしきり笑ってしまった。


人の不幸を笑うなんて…
そろそろ怒られるかもしれない。


「っはーー………ごめん。ふふ」

「や、ぜんぜん…」


よかった。

真澄くん、怒ってはないみたい。
下向いてて表情は見えないけど。


「ごめんね、私が驚かせちゃったからだよね?
私さ、真澄くんが飲みたかったやつ買うよ。
だから、交換しよう?」

「いや!大丈夫です!!
とゆか、栞さんのせいちゃいますし!」

「でも悪いよ。何がいい?」

「いや、ほんまに!

……………あ」

「ん?」

「そ、それやったら…その………
嫌やなければなんですけど……」

「うん?」

「飲み物は、ほんま、どうでもええんで…」

「うん」



「………っ連絡先、教えてくれませんか…!?」