「…………」


沈黙。


時計の音だけが鳴り響く。


ヒリつくような重い空気の中で、
部員のみんなは下を向いてしまい、
誰も作業が進められない様子。


これは……。
………私がなんとかしなきゃ、か。


「…流星。もうちょっとで部活終わるから」


『わかって』という気持ちを込めて、
流星に視線を送る。


「………はぁ」

そんな私を見て、流星は重たく息を吐いた。
…ため息をつきたいのは、こっちの方だよ!


「……待ってっからね。しーちゃん。"今日も"」

そして、不服そうにしながらも、
教室へと戻ってくれた。


帰宅部なのに流星は、
私に部活がある日も、
教室で時間を潰して待っている。


中学時代からそうだった。


『待たずに先に帰っていい』って何百回と伝えてきたけど、
全く聞き入れてくれないので、
最近は諦めて、何も言わないようにしている。


一応、校則違反ではないし……。



重苦しい空気から解放され、
部員のみんなが再び作業に入れたのを見て、
私は安堵の息をつく。


「ご、ごめんね、真澄くん。
なんか流星、機嫌悪かったみたい……。
その…いつもはあんな感じじゃないんだよ?」


流星の代わりに謝ってみたものの、
2人の間に突如生まれた、
謎の溝は埋まるだろうか。


——ガシッと、突然真澄くんが私の両肩をつかんだ。


「栞さんが謝ることちゃいます!
ほんま、謝らんといてください!」


その勢いにびっくりして、私の心臓が跳ねる。


「あ、うん………ご、ごめん…ね?」


しまった。
ドギマギしてたら、また謝ってしまった。


「あ……いや…こっちこそ、すんません…」


彼は、肩に置いた手をパッと離し、
バツが悪そうな顔をして、
私から視線を逸らした。


「あいつが栞さんの幼馴染……ですか」

「…そう。家が隣で、生まれた時から一緒なんだよね。」

「そ、そうスか……」

「うん……」


真澄くんが、大きく息をすって、吐いた。

そして、自分の両膝に置いている拳を、
硬く握った…ように見えた。


「つっ…………………」


「……つ??」


「………っつ……つき………
……つきあってる………と…か?」


ああ…。
よくある質問、ですね……。


「ううん、違うよ。
流星は、ほんとに単なる幼馴染なの。」


「ほんまですか、よかっ……!!
いや、そ、そうなんすね。」


お?今回は伝わったの、かな?

いっつも「ただの幼馴染」って言った所で、
なぜか納得してもらえないんだよなぁ。


「仮にそういう相手がいたとしても、
誰かと付き合うなんてあり得ないよ。
規則は全部守るべきだもん。」

「……規則?」

「ん?うちの学校、交際禁止でしょ」

「えっ!」


あれ。
真澄くん、よくわからない表情をしている。

驚いているような、喜んでるような、悲しんでいるような……複雑な顔。

もしかして、知らなかったのかな……。


「……………」


かと思ったら、
そのあとすぐ、真剣な表情で何かを考え込んでしまった。