……異質な光景だ。


部員のみんながキャンバスに向き合っている中、
美術室の隅のほうで、
静かにちょこんと座っている、大きな男の子。


「…………。」

そんな彼は、なんだかすごく険しい顔をして、
無言でじっとこちらを見ている。


部員のみんな、
『触らぬ神、知らぬが仏』と言わんばかりに、
誰も彼に話しかけようとしない。


…仕方ない。
見学者をもてなすのも、部長である私の役目か。


「真澄くん、絵の経験あるの?」

「まったくないです!!!」

「そ、そっか…。
何か気になることある?
それとも、何か描いてみる?」

「い、いえ!
その、見てるだけで十分です!!」

「…そう?」


…これ以上、話すこともないので、
自分の作業に戻る…が。


…やっぱり、気になる。


微動だにせず、ただただ無言でこちらを見る険しい瞳に、
いよいよ私は我慢ができなくなった。


半ば強引に、
イーゼルとスケッチブック、鉛筆や筆などの一式を、彼の椅子の前におく。


「えっ?えっ?」と困惑する彼に、申し訳なさを感じたけど、
このままだと私も部員のみんなも耐えられそうにない。


「真澄くん、やっぱりさ、
せっかく見学きてくれたんだから、何か描いてみようよ。

題材はー…そうだな……」


私は、資料を開きながら、
彼の隣に椅子を起き、そこに腰掛ける。


「!?」

彼の身体が跳ね上がった。
そして、ぎこちなくこちらに顔を向ける。
震える姿は子犬のようだ。


そんなに怖がらせてしまったか、と反省しながら、
一緒に資料を見てもらう。


「この、猫なんてどう?」

私は、猫の写真を指さす。
彼は無言でコクンと頷き、鉛筆を手に取った。


よかった。これで自分の作業に集中できる。


「なにか分からないことがあったら呼んでね」


私の言葉に、彼はまたコクンと頷いた。


…なんだかちょっと心配なので、
自分のキャンバス一式を運び、彼の隣で自身の作業を再開した。