「………真澄くん?……なにしてるの…?」

「え、えっと…その………」


彼の目が泳いでいる。
言い出しにくいことでもあるのかな…。


「なにか、美術室に用事?」

「う…えっと………」

「あ、忘れ物とか?」

「や………そやなくて………!」

「わかった!じゃあ、道に迷ったんだ?」

「いや、それはちゃいます」

ちゃうんかい。


うーん。じゃあなんだろ……って。
いつの間にクイズ形式に?


用件はわからないけど、
ここから動く気配もないしなぁ……。


とにかく、渡り廊下の時といい、今といい、
びっくりする登場の仕方はやめてほしい。


あ、そうだ。
これは言っておかなきゃ。


「あの…まだ知らないかもだけど……
【用事がない教室に立ち入ってはいけない】って、校則があるんだよ」

「えっ」

次第に青ざめていく彼の顔色。
具合でも悪いんだろうか……?


「いや、ちゃうんです!
あ、あの………そう!け、見学で………」

「見学?もしかして………美術部の?」

「そ、そうです!
…見せて…もらっても…ええですか…」

だんだん小さくなっていく、真澄くんの声。

先ほどまで青ざめていた顔は、
紅葉のように赤く染まっている。

やっぱり忙しない人だな。


それにしても…。
噂の転校生が、美術部に興味があったとは驚きだ。

その身長を活かして、
スポーツしようとは思わないのかな。
流星もだけど。


「うん、もちろん。
あ、一応私が部長なんだけどね。
見学大丈夫だよ」

「ほ、ほんまですか……!」

「うん。
でも、まずは職員室で、顧問の竹中先生に許可もらってきてね」

「!! ハイっ」

彼の顔が、ぱっと晴れやかになった。


「あ、場所わかる?ついていこうか?」
「いや、迷子やないんで!!」

反応早っ。
どうしても方向音痴扱いは避けたいらしい。


そして職員室へ向かおうと、
今にも走り出しそうな彼の背中に告げる。


「廊下は走らないでね」


「!!!! …ハイ」