「というわけで、今日はこのまま放課後デートをしようと思う」




旧視聴覚室にやってきた加賀見先輩は、いつものようにテキストを広げていた私にそんなことを言った。



「はあ……」




デート。

定義としては恋愛感情のある者同士が日時を決めて会うことだけど、単に誰かと二人きりで出かけることを冗談めかしてそう呼んだりもする。当然今回は後者の意味を想定しているのだろう。


私はとりあえずテキストを閉じて顔を上げた。




「参考までに、行先は?」


「そうだな……フレンチのレストランとかどうだ?」


「放課後デートのイメージからかけ離れたラグジュアリーな提案をどうもありがとうございます。却下で」


「だめか……? 天ヶ瀬はきちんとした店で食事をすればまあ外すことはないと言っていたのだが……」


「価値観の違いですね」




フレンチのレストランなんて、たとえ社会人カップルのデートであっても、よっぽど特別な日でないと行かない場所だ。

というか、先輩がデートと言いだしたのは、友達からの入れ知恵だったのか。ちょっと納得。