笹塚さんは、今にも消えそうな声で言う。
というか、「知っててくれたんだ」はこっちのセリフだ。
クラスも違うのに、私のことをフルネームで言い当てた。まさか加賀見先輩みたいにこの学校の全員を把握しているわけでもなかろう。
「あの、川咲さん。さっきは……ありがとう。わたしがよそ見してて転んだだけなのに、ぶつかったなんて嘘ついてかばってくれて……」
「え!? あ、ううん」
「加賀見先輩って、この学校の中でも特にすごいお家の人でしょ? しかも完璧で口数が少ないからちょっと怖いし……。わたし、もう頭真っ白になっちゃって……。本当、何てお礼を言ったらいいか……」
あれは笹塚さんをかばったというより、笹塚さんに触れられてしまいそうだった加賀見先輩を助けただけ。
だからそんなまっすぐお礼を言われると、ちょっといたたまれない。
あと、加賀見先輩が「口数が少なくて怖い」と思われるのは、女子が怖くて仕方ないのを眉間に皺寄せて耐えてるせいなんだろうな……。結構しゃべるぞあの人。