「嫌なことから一度でも逃げてしまえば、逃げ癖がつく」


「逃げ癖……まあそうかもしれませんけど……」


「それに、俺との交流を目当てにしてくれている人も一定数いるわけだからな。がっかりさせるわけにはいかない」




顔色は悪いままだけど、意志の強そうな目をしている。


不思議。

自分のことで手一杯なはずなのに、どうして人のことを考えられるのだろう。

もしも私が加賀見先輩だったら……きっと、そんな苦しいことからは躊躇なく逃げていた。




「……そういうことなら、私もなんか上手いことフォローするようにしましょうか」




頑張ろうとする人には協力したいと思ってしまうのが人情というものだ。

絶対面倒なのに、つい自分から提案してしまった。




「それはありがたい。頼りにしているよ」




一瞬驚いたように私を見た先輩は、やがて優しい笑みを浮かべた。