私は苦しむ先輩を横目に自習を再開した。
さすがにレベルが高いんだよな、この学校の授業。
私は加賀見先輩と違って天才ではないので、日々の努力を怠ってはいけない。
──しばらくの間、旧視聴覚室には時計の秒針とシャーペンの音だけが響いた。
さすがに少し集中が切れてきた頃、私はふと視線を感じて顔を上げた。
「……どうかしましたか? もしかしてまたどれか間違えてます?」
「あ、いや。そういうわけじゃない」
距離をとりながら、何やらじっと私を見つめていた加賀見先輩は、目が合うと慌てたようにそらした。
「髪、染めてるのか? それが少し気になって見ていたんだ」
「ああ、これ地毛ですよ。生まれつき茶色っぽいんです」
「へえ……綺麗だな」
……え?
あまりにストレートな褒め言葉が聞こえて、私は思わず固まってしまった。
さらりとした言い方で、道端の花を軽く愛でるぐらいの自然さだった。