知性に溢れた麗しき御曹司、加賀見律弥先輩の秘密を知ってしまってから一週間。
二人でこの旧視聴覚室に集まるのがすっかり日課になっていた。
ここで毎日、先輩の女性恐怖症を克服するための秘密の特訓が行われている。
「じゃあ始めますか。はい」
基本的な練習内容は、手を繋いで雑談をすること。
もう慣れたもので、私は照れも躊躇いもなく右手を差し出した。
ごくりと唾を飲み込んでからそっと重ねられた加賀見先輩の手は、今日も血が通っているのか不安になるぐらいひんやりとしている。緊張(もちろん胸キュン的な意味ではなく恐怖からくるものだ)のせいだろう。
先輩によると、女子に怖さを感じる度合いは、
同じ空間にいる<<近くでしゃべる<<<<触れる
……とのこと。
同じ空間にいるだけならちょっと気分が悪くなる程度で済むので、日常生活はどうにかやっていけているのだとか。
そしてそれが何故か、私相手になると「近くでしゃべる」でも余裕。
他の女子相手だともう速攻で意識が朦朧としてしまう「触れる」でようやく冷や汗が出てくる程度だそう。