「それなんだ」




加賀見先輩は、ちょっと混乱している私にぴしっと指をさした。




「不思議なことに、川咲に対してほぼ恐怖心が芽生えないみたいなんだよ」


「……え?」


「この距離で平気だなんて、いったいどういうことだ? 本当に女装した男でも歳を40以上サバ読んでるわけでもないんだよな?」


「だから違うって言ってますが!?」




なるほどなるほど。

あの失礼極まりない言葉を投げかけられた理由がようやくわかった。


大きな声を上げてしまった私に、いつの間にか仕事中の先生方の視線が集まっている。

加賀見先輩はなだめるように「悪かった」と苦笑い。




「冗談だ。……さっきはちょっと本気だったけど……」


「小声で言っても聞こえてますけど?」


「それより川咲、ちょっと手を出してみてくれないか?」


「今度は何ですか」




文句を言いつつ、とりあえず言われるがままに手を出す。

先輩はそんな私の手を、そっと壊れ物を持つように握った。

そして、ちょっと満足そうに言う。