機嫌が悪い?
 どこでわかるの?
 全然わからないけれど、仕事を覚えるためにはついていかなきゃ!
 美沙は「一緒に行きます」と屋上に足を踏み入れた。

 夏目は鍵を閉めるとすぐにライターに火をつける。
 手で風よけをしながら、西郷が咥えたタバコに火をつけると、ハードボイルド映画のバディのような雰囲気の二人に、美沙は思わず見惚れてしまった。

 特に会話もなく、煙だけが吐き出される。
 しばらく経ったあと、西郷に突然名前を呼ばれた美沙は心臓が口から飛び出しそうなほど驚いた。

「今の会議、どう思った?」
「すみません、分野が違うので内容が全然わからなくて」
「……だろうな」
 ですよね、未熟でごめんなさい。

「何も知らないやつに説明する時、おまえならどうする?」
「えっと、まず概要というか、コンセプトなどを説明してから詳細に行けたらいいですが、興味がなさそうであれば別の切り口で、なんとか見てもらおうとします」
 だからいつも資料がいっぱいになって、室長に呆れられていたんだけれど。

「今の会議は?」
「……最初から他社製品との比較の説明でしたので、他社製品を知らない私では全然内容がわかりませんでした」
 これでは勉強不足を自分で暴露しているだけ?
 どうかクビになりませんように。

 恐る恐る西郷の顔を見た美沙は、思っていた反応と違う西郷の表情に戸惑った。