「……夏目、何時だ?」
「10時12分です」
 そのまま再び眠ってしまった西郷CEOを美沙は失礼だと思いながらも思わず見てしまった。

 背が高いせいかソファーが小さく見える。
 黒髪は少し長めだが、整った男らしい顔立ちには悔しいほどよく似合っていて、体格も良く足も長くてモデルのようなスタイル。
 
 正直に言ってズルい。
 この見た目で御曹司だなんて、世の男性が怒るのではないだろうか?

「30分から会議なので、10時20分に目を覚まします」
 ジャケットを準備しましょうと言われた美沙はクローゼットに取りに行った。

「ネクタイはなしで。靴はこちらを」
 夏目の指示に従い、準備していく。
 西郷CEOは驚くほど正確に、本当に10時20分に起きた。

 寝起きとは思えないほどテキパキと身支度を整えていく。
 その隣で午前の予定を告げながら、靴べらを渡したり、時計を手渡したり、甲斐甲斐しく世話をする秘書の夏目の姿に美沙は釘付けになった。

 手で髪を掻き上げた姿はまるで猛獣。
 みんなが恐れるCEOだ。

「……あぁ、今日からだったな」
 ようやく空気のような存在感の美沙に気づいた西郷が不敵に笑う。

「本日からお世話になります」
 美沙が深々とお辞儀をすると、西郷は背が小さい美沙の頭にポンッと触れた。

「ついてこい」
「は、はいっ」
 時計は10時30分。
 あれ? 遅刻?
 30分から会議じゃなかったっけ?

 エレベーターで3階へ。
 すぐに会議室に入るのかと思ったら、なぜか西郷も夏目も扉の前で止まった。