「あ、お嬢様がスマホで写真撮ってるね」
 ハルはスマホで翔太のパソコン画面を撮影していそうな麗香の姿をカシャッと撮る。
 証拠、証拠~! と嬉しそうなハルを美沙は思わず眺めてしまった。

「乗り込むぞ」
「はいはーい」
 先ほどの一瞬の真面目な感じが嘘のようにまた軽いノリに戻ってしまったハルは、目が合った美沙にニコッと笑った。
 彰は会場を進み、綾小路商事のブースに。
 近づいてきたアテンダントを無視し、彰は奥の商談ブースに勝手に入った。
 
「は? え? 西郷CEO!」
 翔太は慌ててノートパソコンと閉じ、麗香はスマホをサッとポケットに。
 
「業務時間中のはずだが、加賀翔太、おまえはココで何を?」
 サボりか? と聞かれた翔太は違いますと手を横に振った。

「今日はここに市場調査に。今、こちらの方に商品を説明してもらっていて」
「ではなぜ、うちの会社のパソコンを開いていた?」
「あ、これはその、アドバイスをもらおうかと、類似商品を開発されているので、苦労されているところが一緒かもしれないと思って、それで」
 だいぶ苦しい言い訳に聞こえるのは私だけだろうか?
 
 ここは誰でも来ることができる参加無料の商談イベント。
 ブースの商品を見て詳しい話を聞く場所だ。
 そこにこっちの商品を持って行って、アドバイスをくれなんて明らかにおかしい。

「彰は私に会いに?」
 立ち上がり彰に抱きつこうとする麗香を鼻で笑うと、彰は美沙をグイッと引き寄せた。

「……その女、」
 ジロッと睨む麗香の視線と、驚いた翔太の視線が怖すぎる。
 美沙の指輪に気づいた麗香はギリッと奥歯を鳴らした。