ピコンと鳴る夏目のスマホに気づいた彰はパリの取引先ジョージとのミーティングを終わらせる。
 夏目が運転する車に乗り、なぜか東京ビックサイトへ。
 車を駐車場へ置きに行く夏目を見送った美沙は、彰に連れられ施設へと歩いた。

「彰様、ここで打ち合わせですか?」
「いや、打ち合わせをしている奴らの話をぶっ潰しに行く」
 なんでそんな物騒な話に?
 どうみてもイベント開催中のここで?
 会場の中は所狭しと企業ブースが並び、商談会が実施されている。
 彰はまるで目的があるかのように、会場内を迷わず進んだ。

「美沙ちゃ~ん。はじめまして~」
 人懐っこそうな犬のような笑顔を向ける茶髪の男性に手をブンブンと振られた美沙は、一瞬自分ではないと思い、思わず彰を見上げた。

「……あいつはハルだ。もう一人の統括室メンバー」
 イヤそうに教えてくれる彰に驚きながら、美沙はハルに小さく会釈する。

「そんな畏まらなくていいって~。ね、アキ~!」
「美沙に馴れ馴れしくするな」
「いやん、そんな冷たいこと言うと働かないよぉ~」
 ハルはニヤッと笑うと、今までの軽い雰囲気とは全く別人のような顔つきに変わった。

「綾小路商事のブースに入ってから4分経過してます。はじめの2分は綾小路の商品を見ながら会話を、そのあと奥の商談スペースに移動し、先ほどパソコンを広げました」
 あそこですとハルが指を差した先にいる人物に美沙は驚いた。
 あの後ろ姿は見慣れた翔太の姿に間違いない。
 相手はスーツを着ているけれど、あの美人さんだ。

「どうしてここに翔太が……?」
「誰にも疑われることなく、接触できるからだろ」
 こんな場所で堂々と情報を売っていたとはと彰は眉間にシワを寄せた。