「美沙、ちょっといいか? あ、えっと、また仕事の話で、ここ座ってもいいか……?」
 いいなんて言っていないのに勝手に座る翔太に三人は呆れる。

「加賀くん、ダメだよ。美沙はねー、もう売約済なの」
 前から翔太のことをあまり良く思っていなかった絵里は、美沙の右手を指差しながら翔太を揶揄った。
 指輪に驚いた翔太が目を見開く。
 美沙はパッと指輪を左手で隠した。

「相手は? いつ知り合ったんだ? もう指輪って早くないか?」
「翔太には関係ないでしょ?」
「俺はおまえを心配して」
「なんで?」
 なんで私が翔太に心配されないといけないの?
 私を捨てたのは翔太なのに。

「それで何の用? 仕事の話って?」
 美沙はお味噌汁を飲みながら、仕事の話があるなら早く言ってと翔太に告げた。
 
「……特別共有フォルダにさ、見れないフォルダがあって」
 それが見たいという翔太に美沙は肩をすくめた。

「見れないんでしょう? 権限がないということは見ちゃダメってことじゃないの?」
「美沙は、全部見れるんだよね?」
「開いたことがないからわからない」
 営業部と開発部の連携のためのフォルダでしょう? と興味がない雰囲気を出しながら美沙はかぼちゃの煮物を口に入れた。

「あとでさ、見れるか試して誰のファイルが入ってるか教えてくれないか? その人に権限ほしいって頼みたいから」
 じゃ、頼んだよと返事を聞かずに立ち去る翔太。

「なぁんで見たいのかね〜?」
「営業って開発部の商品全部見てるの?」
 不思議そうな顔をする絵里と菜々美に、美沙は「変だよね」と言いながらお茶を飲んだ。