「夏目、美沙はずっとここにいたな」
「えぇ。抱き枕でした」
 パソコンすら立ち上げていませんと夏目は笑いながら、美沙のデスクのパソコンを指差す。

「美沙、パスワードは誕生日だな?」
「えぇっ、なんで」
「そんな安易なパスワードはダメだ。今すぐ変えろ」
 彰がシャワーを浴びている間に、美沙はパソコンを立ち上げパスワード変更とメールの確認をした。
 
 眠そうなエンジニアからいつもの猛獣のような姿になった彰は、引き出しからあるものを取り出すと美沙の右手を掴む。
 
「美沙、これを」
「……彰様、これって」
「婚約指輪だ」
「……!」
 え? なんで? 恋人設定とは聞いていたけれど、婚約者設定?
 
「とりあえず、今度ちゃんと気に入るものを買ってやる。今はこれで我慢しろ」
「我慢だなんて、……すごくキレイです」
 普通の台座ではなく花が三つ並んだデザインの指輪は、花びらがダイヤモンド、真ん中はピンクダイヤモンドだろうか。
 薬指にゆっくり通される指輪が凄すぎて実感が湧かない。

「あの、どうして……?」
「恋人なんだから指輪くらい当然だろう」
 いや、当然じゃないと思います!
 
「俺の女だという証だ」
 黒豹のような男に手を持ち上げられ、指輪の近くにキスされた美沙は魂が抜けるかと思った。
 こんなの映画の中だけでしょう?
 現実世界でやる人がいるなんて!