「あのさ、俺、営業で他社を回る時、製品カタログを持っていくんだけどさ」
 翔太が話し始めたのは本当に仕事の話。
 営業先で「ここはどうなっているのか」「こういう機能はあるのか」と聞かれた時に製品カタログだけでは答えられないので、開発部のフォルダを閲覧可能にしてほしいという話だった。

「もっと製品に詳しくならないとダメだと思ったんだ。でも毎回担当者に聞くのも時間がかかるし、担当者も大変だろ?」
 だから図面や企画段階から見ることができれば、今よりももっと製品がアピールできるのではないかと熱く語る翔太に、美沙は驚いた。

「だから、西郷CEOにそういう仕組みが欲しいって頼んでくれないか?」
「……もしかして、この前からずっと連絡をくれていたのは」
「あぁ、この話もしたかったし、美沙とやり直したいというのもホントで……」
 絵里と菜々美の視線に気づいた翔太は気まずそうに立ち上がる。

「昼飯中にゴメンな」
 急いで去って行く翔太の後ろ姿を三人はなんとなくジッと見てしまった。

「ホントに仕事の話だったね」
「最後、どさくさに紛れてやり直したいって言っていったけどね」
 ちょっと印象が変わったなと言う絵里に、美沙は「そうだね」と気の無い返事をした。

 昼休みから戻った美沙は、西郷と夏目に誰からの依頼ということは告げずに内容を話した。

「確かにカタログだけでは細かい質問に答えれませんね」
「だが、フォルダ内全部をのぞかれるのは嫌だろう」
「では特別共有フォルダでも作成しましょうか」
 それぞれの部長に話をし、前向きに進めますと夏目は西郷に返事をする。
 
「食堂で情報収集とは。すごいな美沙」
「えっ、いえ、あの、たまたまです」
 本当のことが言えない美沙の心がチクッと痛くなる。
 美沙は午後からのスケジュールを確認しながら、翔太からの依頼だったと始めから正直に言えばよかったなと後悔した。