時間通りに迎えに来てくれた夏目が運転する車で会社へ。
 会議や資料作成の業務をしているうちに、あっという間に昼休みの時間になってしまった。
 社員食堂で同期の絵里と菜々美と愚痴を言い合いながら食事をする。

「それでさ、うっちーがさ」
 菜々美が話しているうっちーとは内海部長。

「りんりんなんてさ」
 絵里が話しているりんりんとは林田部長のことだ。

「しーっ! 声が大きい!」
 聞く人が聞けばわかってしまいそうな内容に思わず美沙は人差し指を口元に当てた。

「美沙~、あんたどうなのよ」
「えぇっ、まだ仕事を覚えるのに必死だよ」
 大変だよと美沙がカボチャの煮物を口に入れながら溜息をつくと、絵里も菜々美も同情の目を向けた。

「でもさ、御曹司カッコいいよね」
「私は優しそうな秘書さんの方が好きだな。美沙は?」
「ほえっ? そ、そ、そんなふうに上司を見てないよぉ」
 恋人役だなんてとても言えない。
 美沙は気まずい思いをしながら、冷ややっこを手に取った。

「……美沙」
 聞きたくない声にビクッと美沙の身体が反応する。
 
「ごめん、仕事が残っていたから急いで戻るね」
 美沙は声の主の方を見ないまま立ち上がり、絵里と菜々美にゴメンポーズをした。

「美沙、待って! ごめん、仕事の話。ホントに、仕事だから、その、ちょっとここで話させてもらっていいか?」
 二人も一緒でいいからと言う翔太の言葉に、美沙はどうしようか悩みながらゆっくりと座る。
 絵里と菜々美がいれば大丈夫……だよね。
 二人は私が捨てられたことを知っているから、いざとなったら助けてくれるはず。

 美沙がチラッと翔太の方を見ると、OKだと思ったのか翔太は美沙の隣に座った。