「お水、飲みたいな」
 玄関を入ってすぐに置いてあったウォーターサーバーから、お水をもらってもいいかな?
 美沙は最低限の身なりを整え、部屋の扉を開けた。

「あれ? いい匂い……」
 匂いに釣られるように美沙は廊下を進み、リビングへ向かう。

「おはよう美沙」
「さ、さ、西郷CEO!」
「呼び名」
「は、はいっ。おはようございます、彰様」
 ラフな黒Tシャツ姿でキッチンに立つイケメンって犯罪でしょう?
 しかも前髪が降りているって新鮮すぎる!
 
 手には包丁、まな板の上にはトマトやレタス。
 この状況は何?

「朝はサラダだけなんだが、美沙は? 昨日夏目に準備させるのを忘れていて、……悪い」
「い、いえ」
 朝食なんてすっかり忘れて寝ちゃいました!
 
 サラダの盛り付けもおしゃれに見えるのはなぜ?
 ドレッシングだけで6種類は多くない?
 しかも見たことがないドレッシングだし。

 ……スパダリでは?
 
「食材や必要な物を買いに行こう」
 サラダを食べ始める彰に美沙は戸惑った。

 翔太から守るためにここに連れてきてくれたのだろうけど、いつまでもここにお世話になるわけにはいかないよね。
 早く新しいマンションを探さなきゃ。
 あそこはスーパーも本屋も近くて結構気に入っていたのになぁ。
 敷金礼金や引越し代も地味につらい。
 
「……美沙?」
「あの、しばらく泊めてもらってもいいですか? 新しいマンションが見つかるまで」
 美沙の言葉に彰のフォークが止まる。

「……しばらく?」
「あっ、迷惑ですよね。すみません、えっと」
「ずっとだろ? 恋人なんだから」
 何を言っているんだという顔をする彰に美沙は目を丸くした。