聞き間違い?
 飲みすぎたかな?

「俺と一緒にいればアイツは美沙に近づけない。俺は美沙がいれば政略結婚を断ることができる」
 どうだと聞かれた美沙は目を見開いた。
 つまりお互いのために期間限定の恋人のフリってこと?

「もしかして、これ前払い……」
 ドレスもネックレスも返品不可。
 お前はこの話を受けるしかないんだぞってこと?

「それは普通に統括室の仕事で必要なものだ」
 嫌なら断ってもらってもかまわないという彰に美沙は悩んだ。

「……私では釣り合わないと思うんですけど」
「俺が美沙に惚れている」
 っていう演技だよね。
 びっくりした。

「俺を拒否しないでいてくれれば、おまえはいつも通りでいい」
 簡単だろ? と彰は再びワイングラスを手に取った。
 少し揺らして楽しむ姿がドラマのワンシーンみたいだ。

「守ってやるから恋人になれ」
 ジッと見つめてくる黒豹のような男の言葉に、美沙は思わず「はい」と返事をしてしまった。

 守ってやるという言葉は魔法だ。
 こんな言葉はズルい。

「ありがとう、美沙」
 イケメン御曹司の笑顔に魂が抜けそう……。
 期間限定だけど、偽装だけれど、こんなすごい人が彼氏……!
 今更だがとんでもない契約をしてしまったかもしれない。