「言い方が悪かったですね。本日10時から会議なので、迎えに行きます」
 あぁ、そうだよね。
 ビックリした。
 西郷CEOのマンションに泊まるのかと盛大な勘違いをしてしまった自分が恥ずかしい。

 御曹司だからきっと高層で、夜景も綺麗で、日当たりも良くて、間取りもおしゃれで素敵なマンションなんだろうなと勝手に想像していた美沙は、呆気に取られた。
 ここは美沙でも知っている有名な億ション。
 最近再開発されたばかりの駅直結の一等地だ。

「ここの最上階です」
 なぜか美沙のスーツケースをガラガラしながら夏目がエレベーターにカードを翳す。

 もしかしてそのカードがないと最上階って行くことができないんですか?
 エレベータの途中の数字がないですけど、住人だけの専用エレベータですか?
 庶民には未知の世界すぎて、何からツッコんだらいいのかわからない。

 最上階には扉が1つしかないですけど?
 まさかフロア全部なんて言わないですよね?

 エレベーターと同じカードで開く扉は自動ドア。
 もちろん監視カメラも上で見張っている。
 玄関と思われる場所だけで、私のマンションの部屋よりも広くないですか?
 何人でここに住んでいるんですか?
 その壁のテレビは何インチですか?
 ソファーの上のモダンな絵はどなたが描いた絵ですか?

「とりあえず、荷物はここに置かせてもらいますね」
 夏目は玄関の片隅に美沙のスーツケースを置く。

「アキー!」
「……朝っぱらからそんなに大声出さなくても聞こえる」
 気怠そうに歩いてきた西郷と目が合った美沙は「おはようございます」と頭を下げた。