「費用対効果は?」
 殺風景な会議室にバリトンの声が響き渡った。

「木村くん、えーっと、効果の部分のスライドを」
 林田部長の指示通りスクリーンに映し出された資料を早送りすると、木村はCEOの西郷にこのプロジェクトがもたらす利益について熱く語りはじめた。

「もういい」
 説明の途中で西郷は軽く手を上げ、説明を止める。
 スッと秘書に差し出されたタブレットに目を通すと、西郷は長い足を組みながら不敵に笑った。

「木村雄吾、おまえは来月から福岡支店に転勤。明日から出社しなくていい」
 来月と言っても、あと2週間もない。
 荷造りをしてさっさと引っ越せと西郷は冷たく木村に告げた。

「……え、左遷……?」
 福岡支店は一番業績が悪い支店。
 木村は真っ青な顔で立ち尽くす。

「気にいらないなら、いつでも退職してかまわない」
 静まり返った部屋に西郷の靴音が響き渡る。
 一度も振り返ることなく、西郷は秘書と会議室を去った――。