婚約破棄ってそういうものだしと、逆に冷静な私は変な知識があり過ぎなのかもしれない。怒っているヴィクトルさん対し、不機嫌なリアム殿下は重ねて言った。

「くどいぞ。ヴィクトル。先程の俺の言葉が、聞こえなかったのか? 今すぐにレティシアを離せ」

 リアム殿下が近付いて手を広げたので、王族の彼がここまで言うのなら降りるべきかと、私は抱き上げてくれていたヴィクトルさんの腕から降りようと身じろぎした。

 けれど、ヴィクトルさんは、腕に抱いた私を抱きしめたまま離さない。

 ……え? 王族に逆らって、この人は大丈夫なの?

 指示に従わないヴィクトルさんは、淡々とした口調で続けた。

「リアム殿下。非常に申し訳ありませんが、それは出来ません。それに、現在レティシア・ルブラン公爵令嬢は、婚約破棄され貴方の婚約者ではない」

「……なんだと」

「つまり、このような状態で私的な交流を持つことは、適切ではないかと。何か書類が必要ならば、ルブラン公爵家へ後ほど届けさせてください。取り調べならば、僕も同席を望みます」

「では、これは命令だ。ヴィクトル。レティシアを離せ」