整った顔がっ……! 顔が近いー! 凛とした声で放たれた言葉は、耳には入るものの、頭には入ってこない。

 誰っ……誰、この人。顔が好み過ぎて、視線が吸い付いて離れない。とても間近にある、美しい金目。黒い髪を持つ彼は、逞しく長身だ。力強い腕で、私のことを横抱きにしている。

 というか……この人、私が婚約破棄されたことを、怒っているの? もしかしたら、悪役令嬢ではあるけど、実は全ては濡れ衣パターンなのかな……?

 完全な悪役だとしたら、こんな男性の助け舟は入らないはずだもの。

 私の身体は貴族令嬢らしく細いとは言っても、数え切れないほどに薄い生地を重ねたドレスは、それなりの重さになるはずだ。

 けど、危なげない動作で、彼は横抱きにしていた。そして、婚約破棄した王子様と同じくらい素敵な男性だった。

 え……誰?

 一生懸命記憶を探ったところで、貴族として育った記憶は全くないから、わかるはずもないんだけど。

 あ、もしかして……ここは、乙女ゲーム世界な感じです……? それならば、納得する。わかる。だとすると、登場人物の顔面偏差値の高さに、理解しか示さない。

 王子様もこの騎士っぽい男性も、現実に居るには格好良過ぎて、もし、私が現代に居て彼らが乙女ゲーム攻略対象者なら、スチルコンプの上、満足するまで何周でもする自信ある。

 え……私ってリアム殿下に断罪されたから、この人と恋に落ちるってこと?

 ……わっ……悪くなくない? むしろ、伏して婚約破棄後のお相手をお願いしたいんですけど……!