ここは、デストレ城にある一室。私に会うために、彼女はわざわざ来てくれた。

「やっぱり……レティシア様は、転生をしていたんですね。あれから動きがおかしいと思いました。まさかとは思っていたんですけど」

 この世界で珍しい日本人らしい顔を隠すためか、目深に被ったフードを払い除けた聖女ミユさんは黒髪ボブの可愛らしい人だった。

「初めまして。あの、ミユさん? 私……婚約破棄のあの場で、前世の記憶を取り戻したの……状況からみて私が悪役令嬢だと思ったんだけど、これって一体、何がどうなっているの?」

 私の話を聞いてから、彼女は脱力したように、ソファにへたり込んだ。えっ……何。私、そこまで酷いこと言った?

「ああ。そういうことですか。レティシア様はこの異世界が何か知らず、乙女ゲームか何かだと勘違いされていたと?」

「そうです……よく見る婚約破棄シーンだと思って……」

 衝撃を受けたらしいミユさんは何度か深呼吸をして、私に話をしてくれた。

「えっとですね……何から説明すれば良いものか。まず、レティシア様は悪役令嬢でなんてある訳なく、この物語のヒロインです。きっと、何か誤解されていると思いますが、私は物語を盛り上げるためだけの単なるモブ聖女です」

 今までずっと『こうでしょう!』と意気揚々と思っていたこと、全てを否定される内容に、私は驚きおののくしかない。

「え。嘘でしょう。聖女様が、モブなの? どういうこと? これは、何の異世界なの?」