幼なじみ辺境伯ヴィクトルとは、どうやら小さな恋人たちみたいな可愛い時間を過ごしたみたいだし、婚約者だったリアム殿下とは関係も良好で、だからこそ婚約破棄の演技を受け入れたんだろうけど……。

 記憶を失う前までの私……レティシア・ルブランは、一体どちらのことが好きだったのか。

 それを知らないと、どちらかを選ぶ結論なんて、下せる訳がないよ!

 鼻息あらく興奮してしまった私の『結婚しません』発言に、二人は顔を見合わせ大きく息を吐いた。

「……そろそろ、我々をデストレ城へ入れてもらおうか。辺境伯。君の隠したかったことは、ここで露見したようだからな」

「ええ……それは、問題ありません。殿下には、特別室を用意しましょう」

 ヴィクトルは私とリアム殿下が会えば、何かしらの誤解があるかもって気がつくと思い、会わせないつもりだったんだ……策士。

 仏頂面になったリアム殿下は近寄り、足が汚れてしまい座り込んでいた私の手を引いてくれた。

「……あ。そう言えば、レティシア。ミユが君にどうしても話したいことがあるらしい。実はデストレまで俺に同行していて、近くの宿に居るんだ」