「記憶が、戻り出しているようですね……すぐに戻りますよ。お気に入りの席も変わらないし、好物のスープもそのままでした。きっと記憶を失っても、一時的なものであろうと思っていました」

 あ。貴族令嬢レティシア・ルブランとしての記憶が、ゆっくりとでも私に戻って来ているということ?

「そっか……良かった」

 もしかしたら、私はレティシアでもなんでもなくて、現代から魂が入り込んだだけかと思っていたから……なんだか安心した。

「ええ。記憶が戻ってから、ゆっくりとどちらと結婚するか決めてください。今ならそれが出来ますよ。君を婚約者にと望み王命を出して貰った王太子は、事情があったと言えど、レティシアを手放しています」

「……何を世迷言をほざく。婚約者は俺で、レティシアは俺と結婚するつもりだったんだ」

 リアム殿下は立ち上がり、怒りの表情でヴィクトルを睨んだ。

「レティシアは本当は、幼なじみの僕のことが好きなんです。貴方との婚約を受け入れたのは、王命で仕方なくです。本来あるべきものが、元通りになるだけの話ですよ」