どんなに悪事を重ねた悪役令嬢だとしても、断罪として婚約破棄された直後に、みっともなく転んでしまうなんて、あまりにも可哀想すぎる。

 ええ。それって、まぎれもなく、この私のことなんだけどね。泣きっ面に蜂で、全異世界が涙するしかない。

 そんな私の現状を思えば無理もないけど、すぐに助け起こしてくれる人もおらず、その場に居る誰もが反応を迷っているようだ。

 さっきまでの断罪シーンの緊張感は何処へやら、貴族が集まる大広間は、くすくすと密やかな笑い声が重なり合って聞こえてくるだけだった。

 早く立ち上がらないと……私は全方位にモテるヒロインではない憎まれ役の悪役で、誰にも助けてなんて貰えないんだから。

 起きあがろうと力を込めた私の身体は、唐突に力強い腕にふわりと抱えられた。

「……リアム殿下。久しぶりの登城時に、このような場に立ち会うことになり、非常に残念です」

「お前。どうして、ここに居るんだ……?」

「幼い頃から婚約をしていたか弱い女性に対し、貴族を集めた夜会でわざわざ婚約破棄を宣言するとは……信じ難い。僕の爵位に付された権限を持って、厳重に抗議します」