「ええ。それはまあ、言えば話がややこしくなると判断したので、仕方ないですよ。久しぶりに会った大事な幼馴染が、あんなにもひどい目に遭っていることを知ればね」

「だから、必要あっての演技だったんだ……これで、すべての誤解が解けただろう? レティシア、俺と帰ろう」

「あっ……あ、私?」

 そっか……そうだよね。私、リアム殿下に嫌われていたりした訳でもなくて、むしろ皇太后から守ってくれるために、あの大掛かりな演技をしていたんだから……。

「いえ。レティシアは僕と、デストレに居た方が良いですよ。悪くなっていた皇太后の体調は持ち直したそうなので、レティに風当たりが強くなります」

 彼が私を『レティ』と呼んだその時、私には不思議と幼い頃の光景が見えた。

 ヴィクトルと思しき可愛い男の子と、私はこの花畑で遊んでいる。

「……え? あ……ヴィー? ……あ。ヴィクトル。私たち…………ここで、幼い頃を過ごしたことがあったのね」

 幼い記憶が蘇り、軽く痛む頭を押さえた私に、ヴィクトルは頷いた。